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塚田農場の躍進の秘訣とは!?

 2013年9月25日に塚田農場などを展開するエー・ピーカンパニーが東証一部上場を成し遂げた。同社は、激しい競争が強いられる外食業界において、5年で売上高を4.5倍(約25億円→約114億円)に拡大し、2012年9月25日の東証マザーズ上場からわずか1年という異例のスピードで東証一部上場への市場変更を果たした。その急成長を支えたものは何であったのか?

塚田農場の売りは、「低価格で宮崎地鶏を提供すること」であり、それを実現しているのは、卸を中抜きした「生販直結モデル」 である(ちなみに、「生販直結モデル」とは、同社が生産“も”行う「第6次産業」であることから、同じ第6次産業のユニクロ、GAP、IKEAの「製販直結モデル」にちなんで同社の米山社長が命名したものだ)。また、塚田農場では、同社社員が自発的に生み出す「各店舗の独自のサービス(来店客が食べ残した料理をアレンジして新しい料理にして、その来店客に提供するといったサービスなど)」も顧客にとって魅力の一つとなっているが、このように自発的にチャレンジする社員の育成にも「生販直結モデル」は生きている。つまり、「生販直結モデル」により社員が育成され、その社員によって「生販直結モデル」が支えられているという構図が成り立っていると言える。そして、この構図を成り立たせるためのポリシーとして米山社長が持っているのが、以下の4点だ。(2013年11月号日経トップリーダー掲載の米山社長へのインタビューより)

 1.(「食のあるべき姿を追求する」という)ミッションを社員に伝え続ける
 2.仕事はまず任せて結果で判断する
 3.ミッションに共感できる人のみ採り、活かす
 4.多様な働き方を用意する

これだけを見ると、特筆すべき独自性は見られないが、同社では、特に1点目を「生販直結モデル」を活かして現場主義で実践している点と、2点目の実践の仕方に独自性がある。そして、これら2点について、他業界においても参考になる点があるものと考えるため、以下で考察したい。

 まず、「ミッションを社員に伝え続けること」についてだが、社長からの口頭による発信だけではなく、「“食のあるべき姿を追求する”とはどういうことか」を社員に身をもって理解させている。例えば、店舗の店長や料理長のための「産地研修(米山社長が教育の柱にしている、「生販直結モデル」を活かした研修)」では、食肉処理を体験させるなどして、社員に食肉処理の現場を理解させている。この研修により、店舗従業員は、養鶏家の苦労や命の尊さを理解するだけでなく、みやざき地頭鶏のおいしさの背景にある養鶏家の工夫や設備の充実さを理解し、お客様に伝えることができるようになるようだ。また、生産現場は自分たちが育てた地鶏を、誰がどのように売っているのかが分かることで、張り合いも出ているようである。そして、このように現場を理解することで、参加者はみな一様に自分の働きぶりを振り返り、忙しさを理由に調理や接客で手を抜いてしまうことがあった自分を恥じるのだという。ミッションに共感する人しか採用しないとはいうものの、実際に従業員がそのミッションに忠実に動こうとするのは、こういった瞬間を現場で感じているからだろう。

この事例から学べることは、「ミッションの浸透も、“百聞は一見にしかず”である」ということだろう。ミッションを社員に何度も説明しても、社員にミッションが浸透しないことに悩んでいる企業や、社員に志を持って欲しいと望んでいる企業は、製品またはサービスを成立させているバリューチェーン(自社内の価値連鎖)やバリューシステム(サプライヤーや販売代理店などの社外を含む価値連鎖)の現場を 社員に身をもって体験させることを検討してみてはいかがだろうか。例えば、IT業界で言うなれば、ITシステムを構築している現場プログラマーが上流工程から降りてきた要件通りにシステムを構築することに邁進してしまっている企業であれば、プログラマーに顧客がシステムを活用する現場を体験させたりすることは、検討する価値があると考える。プログラマーにとって顧客の現場を体験することで、自分たちが構築するシステムが顧客にどのように利用されているのか、顧客が満足しているのか、顧客が使いにくさを感じているところがないかなど、様々な発見があるだろう。そして、顧客の姿をイメージできるようになることで、自らの仕事が顧客にどう貢献しているのか、より貢献するためにはどうすべきかなどを考えられるようになり、顧客をより満足させるアイデアを生み出すプログラマーに育つのではないだろうか。

 次に、「仕事はまず任せて結果で判断する(ちなみに、米山社長は数字として成果だけではなく、社員とのコミュニケーションや報告書のやり取りの中から社員の取り組み方についても見ていることが、記事からは推察される)」についてだ。同社では、「見込んだ社員にはとりあえずチャレンジさせてみる。結果は見るが手段は問わない。」という方針がある。そして、社員が成長したときに、次のポジションや新しい事業がない状況に陥らないように、新規事業展開やいろいろな働き方ができる仕組み作りを急速に展開している。米山社長のポリシーの「4.多様な働き方を用意する」は、まさにこのために掲げられている。多様な働き方 を用意する例としては、店舗と本部の仕事を同時に経験しながら本社の仕事へも携わることができる「ハイブリッド制度」があり、社員は店舗だけではなく本部の問題にも積極的に関与していくことができる。また、コーチングや販促、プロモーションなどのプロジェクトチームを誰でも自由に立ち上げることが可能であり、社員自らチャレンジの場を作ることもできるようになっている。結果として、同社では従業員発信でサービスが生まれており、その積み重ねが顧客満足度を高めるに至っている。

この事例から学べることは、「社員の志やチャレンジ精神を萎えさせない上で、“まず社員にやらせてみる”ことが大切であり、失敗から学べるところは多い」という点ではないだろうか。ルーチン業務に追われていくと、志やチャレンジ精神は失われていくものであり、逆に言うと社員の志やチャレンジ精神を維持するためにはチャレンジの場が必要になる。確かに、チャレンジには失敗もつきものである。しかし、“失敗は成功(成長)のもと”だ。だから、失敗しても許容できる範囲で社員にチャレンジさせる場を作っていく必要があるのではないだろうか。なお、チャレンジさせることで社員の行動に変化を起こすことが、社員の視野を広げ、それがマインド変化に繋がり、チャレンジ精神が醸成されていくことも期待できるだろう。社員にチャレンジ精神を持たせたいと望む企業は、参考にしてみてはいかがだろうか。例えば、新規事業を長年創造できていない企業は、上記の観点で社員のチャレンジ精神、ひいては自社のチャレンジ精神を見直すとともに、そのチャレンジ精神が活かされる場を提供しているかを確認してみてはどうか。

 企業が大きくなるにつれて意志決定の階層が増え、意志決定を通していくことが非常に難しくなり、結果、企業全体としてチャレンジする機会が減衰していくというシーンをよく目にする。また、企業が大きくなるにつれて、全社方針を1人1人の社員に浸透させることは当然難しくなるだろう。しかし、エー・ピーカンパニーは社員数が1300人を超えてもなお、上記のことを実践しているのだ。グローバル展開が多くの企業で進められている今、社員のチャレンジ精神はより必要とされてきており、社員のチャレンジの場も増えてきているはずだ。企業の成長の源泉である、社員への企業ミッションの浸透と、志を持ってチャレンジしていく(アイデアを実行に移す)社員作りには絶好の機会だろう。また、より多くの企業が社員のチャレンジ精神を育むことにより、社員の志も高まり、結果としてベンチャー企業や社内ベンチャーの創出に繋がることも期待できる。結果として、日本にチャレンジ精神溢れるビジネスパーソンが増え、日本のビジネスが米国に勝るイノベーション創造の場となることを是非期待したい。

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