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現場のホスピタリティこそが、地方スーパーの生き残りの道!?

 日本国内の小売産業を見てみると、セブン&アイホールディングスなどの大手流通グループの新たな再編が加速し、地方スーパーの淘汰がこれまで以上に進む懸念がある。そんな中、19期連続の増収増益を達成している地方スーパーが存在する。福岡県にその基盤を築いている「ハローデイ」という中堅ローカルスーパーだ。ハローデイの成長は、スーパー業界がコンビニの台頭や少子高齢化によって環境変化する中での継続的な成長であり、同社には時代の波に流されない何かが隠されているはずだ。
 そこで、ハローデイの成長の秘訣に学び、中小規模の地方スーパーにおける生き残りの道について考察してみたい。

 ハローデイは、福岡県を中心に46店舗を展開(2013年2月時点)している地方の中堅企業である。 実際に店舗を訪ねてみると、店内は清潔感に溢れ、買い物を楽しむ工夫が至るところに見うけられる。特に、生鮮食品や総菜のコーナーなどは色とりどりにディスプレイされており、思わず何かを買わずにはいられないような気持ちにさえさせられる。まさに、「Amusement Food Holes」という売り場コンセプト通り、買い物を楽しむ店づくりが実践されているようだ。

 顧客が日々の買い物を楽しめる店づくりを実践するために、ハローデイには、最も重視している2つの経営思想「①お客様のお声の実践」と「②寝ても醒めても新たな試み」がある。
 「①お客様のお声の実践」の具体的な取り組みに、お客様の声アンケートがある。全46店舗(2013年2月時点)に寄せられるアンケートは、年間約18,000件に上るが、その全てに対して社長・店長が目を通し、約7割を占めるご要望・お尋ねと、約1割のお叱りに対して誠意を持って対応している。また、アンケートの2割は、お褒めの言葉であり、パート従業員が名指しで感謝されることも少なくないという。
 一般的に、パート従業員は定型業務を担う場合が多い。しかし、ハローデイでは、パート従業員が名指しで評価されているのは、何故だろうか。そこで重要になるのが、「②寝ても醒めても新たな試み」である。
 ハローデイが、この「②寝ても醒めても新たな試み」を店舗従業員にまで浸透させるには、様々な紆余曲折があった。現社長である加治氏は、当初、店舗運営の粗探しをしてはトップダウンの指示を繰り返していたと言う。その結果、売上は向上したものの、従業員は委縮してしまい、定着率も悪化の一途を辿っていた。そんなある日、加治社長は、数名のパート従業員が集まって、楽しそうにおもちゃの人形を売り場にディスプレイしている姿が目に入り、試しにディスプレイ用の予算を与えて、自由にディスプレイさせてみることにした。すると、そのディスプレイは、他の店舗従業員や顧客から好評を得たため、それから各担当グループが競い合うようにディスプレイを行う様になり、パート従業員が直接、取引先を巻き込んだ売り場づくりを行うまでに至ったという。現在では、パート従業員を「最先端の従業員」と位置付けて、自由な提案を行える権限を与えている。その結果、一人暮らしで調理をしなくなった高齢者向けに毎日簡単料理のレシピを創作してみたり、お子様向けにキャンディの包装をイメージした寿司を創作するといった、パート従業員が主体的な提案を行う風土が醸成されていったという。
 また、パート従業員の独自の提案が業績向上につながったこともあり、指示・命令ではなく、取り組みを褒めることを徹底している。現在は「褒め方20カ条」をまとめ、店舗責任者には褒め方を学ばせているという。
 この事例から、指示・命令ではなく、顧客の一番近くで働くパート従業員が「楽しく取り組む現場」を作り出すことが、パート従業員の主体的で継続的な提案につながっていることが学びとれる。おそらく、お客様アンケートによって顧客から直接評価されることが、個々の喜びとなり、より良い提案の動機づけにつながっているのだろう。
 更に、ハローデイは、パート従業員が安心して楽しく提案できるための支援も徹底している。年末に店舗を訪れた際に、レジ担当のパート従業員の足元にはマットとヒーターが完備してあった。防寒設備の設置意図を同社に問い合わせてみると、広報担当者から「第一線で働く従業員には、お客様に笑顔で買い物を行ってもらうという重責が求められるため、できる限りの快適で安全に働ける職場環境つくりを目指している」旨の回答があった。

 スーパー業界は、パート従業員の労働力に頼らざるを得ないという現実がある。ハローデイは、パート従業員が常に顧客の声に耳を傾け、「何が最も喜ばれるサービスか」を考えている。それも楽しみながら提案しているのだ。マニュアルを基本に店舗運営を実践している他店舗と比較して、顧客からの従業員に対する信頼は高いであろう事が推察できる。そして、顧客からの信頼は商売の大前提であることを考えると、現場従業員が「何が一番喜ばれるか」を常に考え、楽しみながらサービスを提供することは、顧客の要求を超えたサービスを期待させる。このことこそ、顧客を惹きつける接客の本質と言えるのではないだろうか。ハローデイは、徹底した顧客志向を現場に浸透させ、その実践を徹底するための仕組み・体制をつくりあげていることが強みと言える。

 話は変わるが、旅行新聞社が主催したプロが選ぶホテル・旅館100選で、33年連続で日本一に輝いた「加賀屋」のおもてなしは有名である。加賀屋は、「おもてなし」のサービス価値を高めるために、客室係に権限を与え、宿泊客が安心してくつろげるために必要な後方支援を徹底している。現場の客室係は、宿泊客との会話を通じて、その要望や嗜好を理解し、何が顧客満足度を高めるサービスなのかを熟考して行動するようにしているという。
 ハローデイと加賀屋は、業態こそ違えど、現場の従業員が常に顧客の声に耳を傾け、「何が最も喜ばれるサービスか」を主体的に判断している点で共通する。そして、共に顧客からの高い支持を得て、高いリピート率を上げている。このことから、顧客の要望・嗜好を理解し、最も喜ばれるサービスを現場が考えて提供することを、ホスピタリティと定義すると、ハローデイは、ホスピタリティを現場まで浸透していると言える。

 大手小売り業は、集中購買による交渉力と効率化によるコスト削減により、低価格と利便性を追求してきた。今後も、インターネットを活用して、新しい価値の追求が進むであろう。そうなれば、中小規模の地方スーパーは、中途半端な提案力やコスト削減での競争には限界がある。ハローデイの、徹底した顧客志向型の店づくりは、大手企業には獲得し得ない強みとなるのではないだろうか。なぜなら、企業規模が大きくなる程、店舗従業員への経営思想・理念の浸透は難易度が上がり、売り場の規模が大きい程、現場従業員と顧客が日常の中で接する機会は少なくなるため、中小規模のスーパーに比べ、ホスピタリティを現場に浸透させにくいからだ。
 また、インターネット販売が普及し、実店舗はショールーム化が進むと言われている。大手は実店舗の集客力を高める施策に打って出ることが予想される。最近の事例では、2013年12月20日に開業したイオンモール幕張新都心が、その360店舗の内3分の1が体験型サービスを提供し、店に滞在する楽しみを追及しているという。しかし、これからの少子高齢化社会において、健常な高齢者は、安さや便利さ、イオンモール幕張新都心の様なエンターテイメント性だけではなく、日々のコミュニケーションやホスピタリティという安堵・信頼を求めるニーズがあるのではないだろうか。そういった意味でも、対面販売における、現場の顧客志向(ホスピタリティ)の追求は大手小売業に充分対抗できる競争の源泉となりうる。
 多様なニーズに応える豊かな社会を実現するためにも、真のホスピタリティを追求した企業が増えてくれる事を期待したい。

トンコツ 

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