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NISAは投資未経験者を証券市場へ誘導する起爆材となるか?

 2014年1月、NISA(ニーサ。日本版少額投資非課税制度)がスタートした。これにより、年間100 万円までの投資から得た譲渡益や配当にかかる税金は非課税となる(現行税率は利益の20%)。NISA口座の事前申込(2013年10月1日時点)は358万件(国税庁調べ)にものぼり、2014年1月制度開始時点では、申込件数は475万件(国税庁調べ)となった。政府は20年までのNISA開始後7年間で、NISAを通じた投資総額25兆円を目標としており、野村総合研究所が8月に発表した分析結果では、5年後の政府目標投資総額を上回る28兆-68兆円と試算されている。果たして、これまで投資に興味の無かった人たちが、投資を始めるきっかけになり、予想が現実のものとなるのだろうか。

 予想の検証を行う前に、まずは、NISAの制度の趣旨だが、国の政策から見た場合、2つの観点がある。
 まず、第一に、個々の家庭の資産形成を支援していくことだ。今後、日本では高齢化が一層進むが、日本の国の借金は1000兆円を越えており、もはや年金制度も安全とは保証できない状況だ。その中で、個々人が十分な老後資金を準備するには、投資という自助努力の必要性が高まると考えられる。現在、日本の家計の金融資産は1500兆円ほどあると言われているが、金融広報中央委員会が毎年実施している「家計の金融行動に関する世論調査」によると、一時的な預貯金を除き、金融資産を全く保有していない2人以上世帯の割合は、1972年の3.2%から2012年には26%にまで達した。つまり、個々の家計で見ると、資産保有形態が預貯金に偏り、将来に備えた資産形成が十分でない家庭が増加している。
 第二の観点は、成長資金の供給を拡大することにある。2000年代初めから自民党政権が「貯蓄から投資へ」というフレーズを使い始めたが、これは預貯金に滞留する個人マネーを証券市場に向かわせ、成長産業への資金供給を増やし、日本経済を活性化させるというものであった。ベンチャー企業に投資するのは、一般個人よりも、むしろベンチャーキャピタルや大企業が主だと言えるが、それが活性化するためにも、金融機関や政府を含めた日本全体がリスクを許容する社会に変化していく必要があると考えられる。

 では、既に制度が開始されたNISAは、上記2つの制度趣旨に即して、今まで投資に興味が無かった人たちが投資を始めるきっかけとなっているのだろうか。ここでは、制度開始前の事前アンケートと制度開始後の実績データから検証していくこととする。
 事前申込の受付が開始された2013年6月の事前アンケートでは、現在投資をしている層がNISAの利用に前向きな回答をしている割合が8割に達しているのに対して、投資未経験層では4割以下だった。また、NISAを利用した5年間の投資総額意向については、「400万~500万円」が35.0%と最も多かったが、「100万円未満」との回答も21.2%あった。この結果は、貯蓄・投資総額に起因すると考えられ、貯蓄・投資総額が高い層ほど上限に近い回答が多くあった。総じて、投資未経験者はNISAに対する知識・情報が少なく、投資に消極的な割合が多い結果だった。
 一方で、制度開始後の実績データだが、国税庁が2014年1月1日現在の値として発表した、金融機関から国税庁への口座開設申請数(556万件、重複件数を除く)、NISA口座開設数(475万件)、及び1月中の申込ペースについて金融機関からヒアリングした情報を基にすると、NISA口座の開設を金融機関に申し込んだ人は、1月末時点で全国に約650万人いると推計される。また、今回の調査をもとに今後のNISA口座の申込数を予測すると、2月から12月までにさらに215万人が申込み、2014年末には累計で865万件に達すると推計される。更に、NISA口座の運用原資については、既に投資した人の中で「預貯金」を運用原資としてあげた人が最も多く59.7%だった。次に「既保有の株を売却した資金」(19.1%)が続いている。なお、投資家の平均投資額は、59万3千円となっており、追加投資を考えている人は既に投資を開始した人の50.2%だった。

 ここまでのデータを見る限り、多くの人数の方がNISA口座を開設しているので、制度の趣旨は果たされているように思われるが、実は、NISA口座を開設した人の内訳が公表されていないため、潜んでいる問題がいくつかあると考えられる。
 まず、投資未経験者の割合が不明なこと。次に、年齢層が不明なこと。最後に、開設をしただけで、実際に利用しているかどうかが不明なことだ。
 各証券会社やシンクタンクが発信している、NISAの利用に関する情報では、口座開設者は既存投資家(60代以上)の割合が圧倒的に多く、中には、口座を開設しただけで、利用していない方もいるとのことである。つまり、制度の趣旨で期待されている、若年層の投資未経験者が投資を始めるきっかけになっているかどうかが、正確には判断することができず、果たされていない可能性が高いのである。
 では、どうしたら、投資未経験者を証券市場へ誘導することができるのだろうか。

 NISA制度自体の課題もいくつか既に議論されているが、こちらは解消に向かいそうなので、ここでは、本質的な課題について触れていくこととする。
 これまでも、確定拠出年金制度の導入、証券税制軽減税率の実施など、様々な政策があったが、「貯蓄から投資へ」の大きな流れには至っていなかった。
 日本銀行の資金循環統計によると、日本の家計が保有する金融資産は6月末時点で1590兆円ある。うち現預金が860兆円と54%を占めている。株式・出資金は8.1%の129兆円、投信は4.5%の72兆円である。欧米では、米国が現預金14%、株式34%、投信12%(3月末時点)、欧州は現預金36%、株式15%、投信7.2%(昨年末時点)で、日本の現預金の割合が異常に高いことが伺える。
 日本の家計が多くの現預金を資産として保有する理由の一つとして、1990年代以降のデフレ経済の中では、金利水準が低く、株価も低迷していたため、元本が保証される現預金を選択するという合理的な行動が取られていたことが挙げられる、また、現代の若年層に限って言えば、非正規労働者も増える昨今、投資に回す余力がないことも大きな理由の一つである。しかし、1990年代から現代に至るまで、両者に共通して言えることとして、お金や資産運用に関する教育の不備が挙げられる。これは、東京証券取引所が昨年、NTTデータ経営研究所に委託して実施した調査で、20~30代の女性の8割程度が株式投資を「知らない」もしくは「取引制度やルールなど具体的なことは知らない」と回答したことからも伺うことができる。このような現状では、例えどんなに、NISAを広告等で宣伝しようと、投資に関する知識が無い方の背中を押すことは難しいと考えられる。今後は、若いうちから、お金や資産運用に触れることが、「貯蓄から投資へ」を促す課題になると考えられる。

では、具体的にどのような対策を実施していけば良いのだろうか。
 今後、個々の資産形成に関して、一層自助努力が求められる社会においては、個々人が、お金や資産運用、金融経済の仕組みを学ぶ必要がある。実際に、NISAの基となった制度を作った英国では、幼少期からお金の使い方、貯め方などを教えているそうだ。また、アメリカの高校では「コンシューマー・エコノミクス」という必修科目があり、経済学の初歩的な知識、金融機関とは何か、投資とは何かについて学ぶ機会があるそうだ。更に、アメリカでは返済型の奨学金を利用して大学に進学し、社会人になってから自分で返済するケースも多く、学生の頃からお金について考える機会が、日本よりも多い。。近年、日本でも小中学生を中心としたソーシャルネットワークゲームでの課金問題が発生しており、子どもの頃からお金のトラブルに巻き込まれる機会が増えている。そのようなことからも、幼い頃から、お金や資産運用について学ぶ必要性は高まっていると言えるので、諸外国のように学校の授業の一環で学ぶ機会を提供することが求められる。

安全・安心を求める日本の国民性もあることから、投資したお金が元本割れしてしまうリスクを取ることは敬遠されがちだが、一方で、投資商品を購入すれば、もっと高い利益も期待することができる。資産を現預金で保有しておくことも、自ら資産選択をしているという点で、広義の投資になる。安全志向でいくのか、リスクを取って高い利益を狙うのか、個々人の目的に応じて、どのような投資が最善なのかを理解することが大切である。
 NISA自体は、投資未経験者を証券市場に誘導するには至らないと考えられるので、NISAの制度開始を機に、お金に関する教育が見直され、子どもの頃から学ぶ機会が増えることが、一番の近道になるのではないだろうか。

ノラ猫 

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