先日、女性大臣の辞任が相次ぐという不祥事が報じられ、世間を騒がせている。不祥事は大変残念なことであったが、「女性の積極登用」において安倍内閣が率先垂範の姿勢をみせたこと自体は評価に値すると考えている。
日本の管理職はなぜ男性ばかりなのだろうか。
シカゴ大学社会科学部の山口教授は、「ホワイトカラー正社員の管理職割合の男女格差の決定要因」という論文の中で、長時間労働が男女格差の要因であることを特定している。管理職割合の男女格差は、性差別ではなく、労働時間によって決まっていたのだ。
ここで一つのデータを確認しておきたい。子育て期にある夫婦の家事・育児時間をみると、共働き世帯と、妻が無業の世帯において、夫の家事・育児時間はほぼ変化がない。その一方で、共働き世帯の妻は、仕事時間と自由時間を削って家事・育児の時間を、毎日3.5-4.5時間捻出しているのだ(※2)。つまり、現代においても家事・育児は女性の仕事となっていることがわかる。長時間労働が管理職の要件である以上、家事・育児の時間的負担が大きい女性にとって昇進・昇格を目指すこと自体が困難であると言えるだろう。
どうやら、企業活動において、女性管理職が管理職全体の3割を超え、活躍していくためには、長時間労働以外のコミットメントの尺度が求められそうだ。そうでなければ、管理職候補には、結婚しない女性従業員や出産しない女性従業員、もしくは出産・育児と仕事を両立できるスーパーウーマン以外エントリー自体が許されない現状が継続されることになってしまう。
新たな尺度を考える上で、カルビーの事例が参考になる。
カルビーの事例から、女性の活躍推進を掲げる企業が学ぶべきことは、女性管理職の活躍を実現するためのISSUEが、「いかに従業員が効率よく成果を生み出せる様にするか?」であるということではないだろうか。
冒頭にも述べた様に、今後、国内労働力人口は大幅に減少していくため、優秀な人材の採用においても企業間の競争が激化していくだろう。その様な経営環境において、人口の約半数を占める女性が活躍できない企業文化のままでは、人材面から競争優位性が失われる可能性さえあるのではないだろうか。
<出典> トンコツ
政府は成長戦略の中核に“女性の活躍支援”を掲げており、その中で、指導的な立場の女性の比率を2020年に30%にする目標を定めている。目標設定の背景には、今後、国内労働力人口(満15歳以上の人口のうち、就業者と完全失業者の合計)が大幅に減少していく中、世界的にみても女性を経済活動に活用しきれていないという現状がある。その様な中、トヨタ自動車や日立製作所、三井物産など各企業が女性管理職の数値目標を具体的に示す動きが見られ、これから女性従業員の要職登用が加速していくことが予想される。
しかし、日本における女性管理職の割合の現状をみると、部長職2.3%、課長職4.5%、係長職10.2%(従業員5000人以上の企業)と、目標にはほど遠いことがわかる(※1)。
かつては、男女間の教育格差が原因とされてきたが、現代において男女の教育格差は無くなったと言ってよいだろう。それでもなお、高卒男性の方が大卒女性より管理職になる比率がはるかに高いという現状がある。実は、この管理職の男女比率を性別という観点からのみ見ると本質を見誤ってしまう。日本企業には、大卒女性より高卒男性を管理職に昇進・昇格する公正な理由・基準があるからだ。
仕事と家事・育児を時間的に両立できない女性従業員の約6割が、第一子出産を機に退職してしまう事実にも頷ける(※3)。そのためか、男女で比較してみると、管理職要件に長時間労働が関わる度合いは女性の方が高く、女性に対して労働時間へのコミットメントをもって会社へのロイヤリティを確認している傾向さえ見られる。
カルビーの松本晃代表取締役会長兼CEOは、2009年の就任以来、成長が鈍化する製菓業界において5期連続の増収増益を達成すると同時に、女性管理職比率を6%弱から14%強へ上昇させている。カルビーは、「35-25-25(女性の比率を全社員の35%、管理職の25%、執行役員の25%にする)」という数値目標を設け、業績の成長と女性管理職比率の増加を同時に推進し続けているのだ。
カルビーの最たる特徴は、「効率よく仕事をして成果を出している人を評価する」という人材の評価方針だ。
松本氏は、従業員に成果を効率的に生み出させるために、「コミットメント&アカウンタビリティ(約束と結果責任)」という結果主義を徹底することで、各従業員の責任を明確にし、従業員が自律して働くための仕組み・制度を次々と整備していっている。
また、「長時間労働は悪である」という価値観を徹底して浸透させている点も見逃せない。長時間労働という女性の活躍を阻害する根本要因を捉え、男女問わず効率的に成果を生み出す環境を整備しているのだ。その結果、時短勤務のまま850名の部下を抱える女性執行役員が誕生するなど、従来では考えられない様な女性の活躍事例が登場してきている。
長時間労働を良しとする企業文化の中では、女性管理職の活躍は限定的である。企業が一定数以上の女性従業員を管理職に登用し、企業の成長に貢献する成果を得るためには、長時間労働を“悪”と捉えることが大前提であり、長時間労働ではなく、限られた時間の中での成果(業績)に対してコミットメントを求める必要があるだろう。
「効率よく仕事をして成果を出している人を評価する」という評価方針においては、男女の性別差の概念は関係がなく、より生産性の高い従業員が正当に評価されるということである。そして、従業員が効率よく成果を生み出すためは、様々な制度・仕組みを整備することが企業には求められることはもちろん、当然、従業員個人にも約束した成果を限られた時間の中で達成するための日々の自己向上が求められる。
よく女性活躍の推進とあわせて時短勤務やテレワークの話を耳にするが、上述のISSUEを前提とした議論においてのみ、それらの施策・手段は有効であり、単体で議論することにはほとんど意味がないと言えるだろう。
従来の長時間をかけて猛烈に働くという働き方を見直し、「いかに従業員が効率よく成果を生み出せる様にするか?」について、経営者はもちろん、従業員個人にも是非、考えてみてもらいたい。
※1:厚生労働省「平成25年雇用均等基本調査」
※2:総務省「社会生活基本調査 子育て期にある夫婦の家事・育児時間」
※3:国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査・夫婦調査」
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