安倍政権は観光立国の実現を成長戦略の一つに策定し、2020年東京五輪・パラリンピック開催に向け、観光産業の起爆剤としてカジノ関連ビジネスを始めることを検討している。具体的には、自民・公明・民主など超党派でつくる「国際観光産業振興議員連盟(IR※議連)」が今年の通常国会で新法案(IR推進法案)を提出し、環境整備を進めようとしており、各地方自治体でも検討が進められている。
カジノ関連ビジネスを始める上では、現在賭博として刑法によって違法とされているカジノ自体の合法化がまず必須となる。そこで、本コラムでは、①カジノ合法化のために明確にするべきポイントはなにか、を一つ目の論点として考察する。また、②仮に合法化した場合、実際にカジノを中心とした施設/空間をどのようにデザインしていくのが望ましいか、についても二つ目の論点として考察していく。
さて、①(カジノ合法化のポイントについて)の議論を検証する前に、まずはなぜ今までカジノが日本において社会的に認められてこなかったのかについて一度整理してみたい。先に結論を述べると、日本独自の歴史的背景によるところが大きいと考える。
以上をまとめると、「1.目的の公益性・公共性、2.収益の使途の公益性・公共性、3.開設・運営主体に対する厳格な規制、4.開設・運営方法の適切性」の4点が、カジノ合法化に向けて明確にするべきポイントとなると言える。すなはち、運営主体を明確にして、セキュリティ強化や適切な入場規制など、ある程度コントロールする環境整備を心掛けた上で、本来の目的(「観光振興による経済活性化」)に対しての税収増加や雇用拡大などのチャンスを最大化するためにカジノを含めた統合リゾート施設全体をデザインしていくことができるのであれば、合法化の議論は前に進めていいと考える。(ちなみに、後者のチャンスについては、どの地域でどのターゲットに対して運営していくかによる所も十分に大きいと考えられるため一概には言えないが、バンクオブアメリカ・メリルリンチの試算によると、日本にカジノができた場合、国内の利用者も含めて約200億ドルの収入が見込まれ、米国・マカオに続いて世界第3位の収入規模になると予想され、それに基づく税収は年間2,000~4,000億円増(現在の中央競馬事業からの税収は年間約2,500億円)、雇用創出は6万人規模に及ぶと予想されている。)
では次に二つ目の論点である、国としてカジノを含めた統合リゾート施設をどのようにデザインしていくべきなのか、について考察していきたい。
前者(=経済的側面での効果を狙ったカジノ開設)は、ドイツやモナコ、シンガポールが代表例として挙げられる。
後者(=文化的側面での効果を狙ったカジノ開設)は、アメリカやカナダ、マカオが代表例として挙げられる。
今回議論になっている国内カジノ構想は既に述べたとおり、前者の経済的側面での意味合いが強く、観光産業強化による国際競争力強化に向けて合法化しようとしている議論の経緯などを見るとシンガポールの事例が最も似通っており、参考になると言える。具体的には、シンガポールは観光振興を目的として、統合型リゾート施設としてカジノを中心に構築していくことを掲げた上で、カジノ運営のノウハウを当時全く持っていなかったが故に、RFCと呼ばれる手法を活用しカジノ合法化と統合型リゾート開設を推進した。RFCとは、入札前に国際的なカジノオペレーターに情報提供させる手法であり、制度設計/デザインアイデアに関する情報収集を行いながら投資側の投資意欲の確認と国民理解の推進を行うものである。更には、害悪性を最小化するために個人IDによる入場管理や入場料の徴収による需要抑制施策を講じ、ギャンブル依存症対策として「賭博依存症国家評議会」(NCPG)と称する国の機関を設け、調査研究から、カウンセリング、治療に至るまで官民協働で行った。日本もカジノ合法化の目的はシンガポールと同様であり、かつノウハウを全く有していないという点においても共通しているため、これらのやり方は大いに参考にできるのではないだろうか。
今回の衆議院解散を受け、IR推進法案は一度廃案となってしまったが、今後検討が続いていく事案であることは十分に予想され、実際に日本国内のカジノ開設に向けては、米国カジノ運営大手のMGMリゾーツ・インターナショナルなどの外資企業が名乗りを上げており、今後の動向がますます注目される。 ハッピーホーム
※IRとは…特定複合観光施設のことであり、いわゆるカジノやホテル等のレジャー施設を併設した統合型リゾートを意味する。
そもそもカジノの起源を紐解くと、18世紀頃欧州で始まったのが最初であり、現在に至るまで欧米では社会的に認められているところが多い。イギリスやフランスでは、18世紀当時から貴族や富裕層の社交場としての面が強く、格式高い場所として発展していった。また、アメリカでは、1931年のネバダ州での合法化を皮切りに1940年以降“娯楽ビジネス”としてショーやホテルを組み合わせた施設が開設され発展していった。
一方で、日本においては、「賭博行為」は「『健康で文化的な社会の基礎となす勤労の美風』(憲法27条第1項参照)を損なう」とされ、カジノは「賭博行為を行う場所」として違法とされてきた。
この両者の違いは、戦後の状況の違いに基づくところが大きいのではないだろうか。つまり、戦勝国としてマネーゲームで世界経済の中枢を担っていったアメリカやイギリスとは違い、日本は敗戦国として殖産興業を積極的に掲げ、真面目な勤労によって経済復興に取り組んできた。そのような歴史的背景が、カジノのような「賭博性のある娯楽」に対して社会的に許容しづらい文化を形成してきたのではないだろうか。(同じく敗戦国であるイタリアやドイツの場合は、戦前からカジノ施設が既に公認され、存在していたため、この限りではないと考える。)
以上のような「賭博性のある娯楽」が社会的に許容されてこなかった背景がある一方で、現在の日本では、カジノと似た「賭博性のある娯楽」の中でも、競馬・競輪・競艇・宝くじといった公営賭博とパチンコなどの民営遊技場は存在する。これらの施設はカジノと違って法規制によって認められているのであるが、それはなぜなのであろうか。その点について考察を深めることでカジノ合法化のためのポイントを明らかにしていく。
前者の公営賭博に関しては、過去の判例では、「『公の目的をもって』特別に運営される場合に限り、得られる社会的便益が賭博の害悪性を上回る」、として認められており、後者(パチンコ)については「賭博」ではなく「遊技」として風営法で認められている。どちらについても共通して言えるのは、その目的に対して「賭博」の要素が強い娯楽として捉えられておらず、法的に公認されているという点である。すなわち、「賭博」の要素に偏らない「目的の公益性・公共性」を明確にし、そこから得られる「収益の使途の公益性・公共性」を明確にして、もたらされる社会的便益を明らかにすることが合法化に向けた一つのポイントとなる。
一方、「目的」と「収益の使途」が明確になったところで、その社会的便益がカジノ開設によってもたらされる賭博の害悪性を上回ることが確認できなければ合法化していくことは難しく、上記ポイントだけでは不十分だと言える。従って、賭博の害悪性を最小限に押さえた娯楽施設として運営できるように規定していくことがもう一つのポイントとなる。カジノの賭博の害悪性として一般的にあげられる点は、犯罪増加などの治安/環境の悪化やギャンブル依存症増加懸念などである。これらの害悪性を最小限に抑えるために必要なことは、「開設・運営主体に対する厳格な規制」と「開設・運営方法の適切性」を明確にすることであると考える。前者は、カジノを誰が開設・運営するのか、問題が起きた際の責任所在はどこにあるのか、問題が起きた際はどのような対応を取らなければならないのか、などを明らかにすることであり、後者は、犯罪が起きないようにするためにどの程度のセキュリティが求められるのか、利用者が依存状態に陥り生活に支障をきたさない為にはどのようにコントロールすれば良いのか(例えば、個人ID管理による入場規制など)を明らかにして開設・運営基準を明確にすることである。
考察する上で、海外のカジノ事情を概観してみると、その目的(効果)として大きく経済的側面と文化的側面の二種類が存在することが分かる。
ドイツ…カジノに対する税率を粗利益の80%とし、即日納入を義務化している
モナコ…隣国フランスで禁止されていたチャンスを活かし、経済基盤の中核として開設(1887年の国家歳入の90%がカジノによる収益)
シンガポール…政府が観光地としての魅力低下に危機感を感じ、カジノを合法化。結果IR事業の収益の7~8割がカジノによる収益となっている。
アメリカ…一大観光・レジャー施設の他、「インディアン・カジノ」と呼ばれるアメリカ先住民族の自立を促すために作られたカジノも存在
カナダ…「チャリティ・イベント」としてカジノを位置づけ、収益の大部分を「健康や福祉」「教育や文化」の促進に充当
マカオ…1,800年代に現地から香港への移民流出を引き留めるため、賭博を合法化したのが始まり
加えて、筆者の個人的な見解を述べさせていただくと、経済的側面での効果のみに終始することなく日本独自のコンテンツ力(=アニメや漫画などのコンテンツや“おもてなし”といったサービス)や技術力(=顔認証技術をはじめとするセキュリティ技術やIoT関連の先進技術、ビッグデータ解析技術など)を全面に活用した統合型リゾート施設とし、国内文化の発信や国内技術力の醸成などの文化的側面での効果も期待できるように施設をデザインしていくことが、他国のカジノとの差別化にもつながり“新しいカジノ”として世界的にも大変意義深いものになるのではないかと考える。
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