News / Topics

最新情報

少子高齢化時代を迎えた日本企業 「高齢層活用の一考察」

 少子高齢化が声高に叫ばれ始めてから、早いもので30年が経過しようとしています。出生率の低下と同時に平均寿命の上昇が重なることで「少子高齢化」が加速します。この間に、出生率の低下をすこしでも食い止めようと様々な政策が展開されていますが、抜本的な解決には程遠い状態で、出生率は先進国の中でも最低水準のままで変わっていません。一方の平均寿命は医療技術の進歩によってますます長くなりました。  少子化や人口減少を食い止める方法としては、出生率の改善と移民の受け入れということになりますが、前者が改善したとしても就業人口がプラスに転じるまでは、最低でも20年以上は必要です。また、後者は日本人の気質や治安悪化などの懸念もあって、なかなか進展しないばかりか、法整備もままならない状況です。  そういった中で、各企業は就業者人口の減少が本格化する前に対策を講じておこうと、既存社員の囲い込み策を、積極的に考え始めました。定年延長や再雇用制度などの整備がそれにあたります。現在の社員の雇用期間を延長して、減っていく若年層労働力を補うという考え方です。しかし、この施策にはいくつかの問題があります。  企業の人事制度は、昭和からの古典的な制度を母体として、その時々の環境変化に応じて、様々なマイナーチェンジを加えて現在に至っています。特に大きな変化として挙げられるのは、年功的要素を薄め能力や成果に応じた評価処遇体系の導入、裁量労働制(残業費の抑制)の導入、非正規労働者の活用拡大(コスト削減と労働力の変動化)、そして定年延長や再雇用制度による高齢者の活用などです。  時流に合わせて人事政策は変化していくわけですが、その中で一貫して変わっていない思想的背景があります。それは「すべての人材は、年齢が上がるにつれて能力が衰え、やがて活躍できなくなる」というものです(思想的な背景というよりは、あまりに常識すぎて暗黙の了解といってもよいのかもしれません)。その証拠に、原則としてすべての企業で雇用の上限年齢を決め、企業によってはある年齢を境に給与が上がらない(下がる)仕組みを導入しています。  企業の責任として、国家の社会保障制度が適用される年齢までは雇用しようということですが、定年年齢の引き上げによる給与総額の上昇やポスト不足に備えるため、定年年齢の引き上げとセットで役職定年制を導入しました。役職者が一定年齢に達したら管理職ポストを外れ専門職などに転換するというルールですが、これこそが「年齢が上がるにしたがって能力が衰える」という考えを端的に現しているといえます。表向きは、若年層を登用するために、ポストを空けようというものですが、「加齢によって明らかにパフォーマンスが落ちた人材が、既得権益として65歳までポストにしがみつかれたのではたまったものではない・・・」という企業の本音も見え隠れしています。また、再雇用制度は、一時的には退職することになるので、再雇用後は新たな給与体系の元で低い給与となり、担当する職務もレベルダウンさせることができるようなルールとセットになっています。これも年齢が上がることによって、企業内の主要な職務を担うには能力的に厳しいが、労働力が足りないので安い給与で主要ではない職務を担当させようという考え方です。  このように、現在の制度設計は、「すべての人材は、年齢が上がるにつれて能力が衰え、やがて活躍できなくなる」という一般論が背景にあり、この仕組みによって、高齢層のやる気やマインドの衰退を引き起こすことになります。例えば、60歳定年制で55歳役職定年という仕組みの元では、役職者は55歳になった時点で、どれだけ業績を上げどれだけバイタリティ溢れた活動をしていたとしても、有無を言わさず役職を解かれ、第一線から退場することになります。その後は相談役や専門職への異動など、来るべき定年に向けた残期間を全うすべく、閑職に回されることになります。もちろん給料もさがることになります。このように本人の状態や希望などが加味されようがないルールが決められているので、55歳以降は活躍の場がなくなり、急激に仕事に対するやる気を失うことになります。明らかにパフォーマンスが落ちた人材に対するルールであれば、仕方ない面もありますが、まだまだ若年層に対しても十分以上に競争力をもった高齢層も同じく適用されてしまうので、高齢層の活用を標榜することとは真逆の方向を向いているといわざるを得ません。企業は高齢者を労働力として「活用」することは考えても、第一線で若年層と対等かそれ以上に「活躍」してもらうことは全く考えていません。限りあるポストを速やかに明け渡し、若い世代にバトンタッチするという大義名分はありますが、これは若い世代が続々と入社してくるという、従来の人口増加モデルに乗っている場合にのみ成立するものであり、若い世代が急速に減少していく現代においては、企業全体のパフォーマンスを下げてしまう仕組みであることは明白です。  これらの問題を克服し、新卒社員が続々と入社するような環境では無くなる時代の制度として、一つの考え方を提起します。ポイントは年齢という軸を取り払って制度を見つめ直すことにあります。若年・高齢を問わず、優秀な人材(期待したパフォーマンスを発揮できる能力を持っている)には活躍の場を平等に用意し、優秀な人材であれば年齢は関係なく登用するルールです。     ・定年年齢は原則70歳とし、70歳までは本人の希望と発揮能力のレベルによって、第一線で活躍する機会が提供される(配置、ポスト、適正な職務など)     ・役職定年制は廃止。ポストを外れるかどうかは能力と実績で判断される     ・年功的な給与はなく、能力によって給与が決まる(能力評価、ポテンシャル評価、個人業績評価など)     ・育成機会は若年層ほど厚くし、高齢層になるにしたがって薄くなる。しかし高齢層であっても育成の機会は与えられる     (注意)定年年齢を原則70歳としているのは、恒例によって明らかにパフォーマンスが落ちてしまった人材を雇用し続けることは競争力の面から適切ではないため、最終的な上限値を設定するものです。  これによって、どの年齢層であっても、やる気や自己能力を向上させる意欲があり、実際に能力が発揮できる状態であれば、年齢に関係なく、第一線で活躍できる仕組みを構築することができます。この仕組みのよい点は、例え若年層であっても明らかにパフォーマンスがあがらない人材や、モチベーションが低く組織ぶら下がっているだけの人材などへの対策にもなることです。また、ポストに安住している管理職なども、能力が発揮できていなければポストをはく奪されることになり、既得権益化した部分にもメスを入れることができます。能力に応じた給与テーブルをしっかりとデザインすることによって、能力の高い人材にとっては魅力的な仕組みとなり得るものです(能力が発揮できず給与が下がり続けることに不満があれば、自分を磨くか新しい職場を見つけるということになる)。高齢層に限らず、人材の活躍とモチベーションを促す仕組みとは、機会を平等に提供することであり、高齢層だからといって一律で能力が衰退していくという考え方では、優秀な人材の登用機会をみすみす捨てていることになります。なお、組織全体の総合力を引き上げるために、中堅以上の人材には、若年層の育成を重要なミッションとして評価指標に含める必要があります。個人の業績は今一つであっても、若年層の育成に高い能力を発揮する人材の発見にもつながります。  例えば、高齢層が定年まで第一線で活躍したいと考えるのであれば、自分の能力を磨き続け「使える高齢者、当てにされる高齢者」でい続けなければなりません。人間という生き物の生物学的特性から、体力的、脳力的、気力なピークがあり、ピークを境に徐々に衰退していくことは避けられません。しかしピークを過ぎて体力が落ちてきたとしても、競争力のある発揮能力を十分に維持できるだけの蓄積してきた経験、知識、知見、人脈があります。気力(モチベーション)さえ落ちなければ、体力面のディスアドバンテージを補って、若年層とも十分に渡り合うことは可能です。また自分磨きには、外見を磨くことも含まれます。アンチエイジングやファッションに気を配って、若々しい外見を保つことは、ビジネスを遂行する上では大事な武器になると同時に、新しいロールモデルともなります。  グローバル、ボーダーレスな環境の中で、海外のライバルに勝っていくためには、若くてバイタリティがあり、創造的で可能性を秘めた人材が必要だという主張は、一般論としては正しく聞こえますが、完全な正解とも言えません。ライバルに勝つためには、一部の優秀な人材や若手人材だけではなく、我慢強く簡単には諦めない高齢層、豊富な経験からリスクの少ない道を模索できる高齢層などの力も活用してこそ、ライバルと伍して戦う貴重な武器になり得るのです。企業の中で、優秀な若年層に交じって、高齢層のレジェンド達が大活躍し、一緒になって業績をけん引している姿こそが、少子高齢化を迎える日本企業に求められる姿なのかもしれません。                                                                 マンデー
Contact

お問い合わせ

PMIコンサルティングでは、企業の人と組織を含めた様々な経営課題全般、求人に関してのご相談やお問合わせに対応させていただきます。下記のフォームから、またはお電話にてご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。