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一億総活躍社会において社員の生産性を高める

 『4500万人』 

 何を表した数字でしょう。
 現状のまま推移した場合の、今後50年で減少する日本の人口を表しています。(※1)
 韓国の人口が約4800万人、スペインの人口が約4600万人、アルゼンチンの人口が約4000万人、カナダの人口が約3400万人、オーストラリアの人口が約2200万人です。この様な国が消滅してしまうインパクトがあるということです。
 人口減少の問題は、様々な場で議論されており、多くの方にとって既知の問題だと思います。しかし、数字として示してみると、如何に衝撃的な数字であるかがわかります。

 2015年10月に成立した第3次安倍改造内閣は、50年後も人口1億人を維持し、全国民が生きがいを持って活躍できる全員参加型の経済社会を「一億総活躍社会」と名付け、その実現を政策の目玉としました。少子高齢化や人口減により、労働力人口の大幅な減少が避けられないこと(※2)や、膨張を続ける社会保障給付費の財源を、現状のままでは維持できないことが、政策の主な背景となります。
 第二次安倍内閣では、日本の労働市場改革の一環として、女性の労働参加を促す政策を打ち出し、企業への要請や女性活躍推進法の成立などを経て、女性の労働参加を後押しする土壌は整備されつつあります。今後は、「一億総活躍社会」の実現に向けた動きが加速していくことが予想されます。

 企業の喫緊の課題は、大幅に減少し続ける労働力人口、女性や高齢層の労働参加の増加、更には、“希望出生率1.8”、“介護離職ゼロ”、“生涯現役社会”といった政府目標を受け、出産・育児・介護といったライフイベントを享受できる働き方の加速という経営環境の変化に対し、如何に対応できるかということです。
 これまで、多くの国内企業は、男性の人材を基軸にした、人材マネジメントの仕組みを構築し、人と組織のパフォーマンスを最大化することを考えてきました。現在、①生産年齢(15-64歳)の男性が約35.0%、②女性が約34.3%、③65-74歳の男女が約30.7%という人口構成(※3)ですので、男性の人材セグメントは全体の3分の1を占めています。しかし、2020年に向けて、若い労働力は大幅に減少(特に“25-44歳”の年齢層の減少が顕著)し、“45-54歳”と“65歳以上”の2つの年齢層のみが増加(※4)していきます。つまり、これからは若い労働力の人材セグメントはボリュームを失い、人的経営資源の希少性は高くなっていくことが考えられます。採用や雇用のコストが増加するということです。
 加えて、多様な人材の労働参加が進んでいくと、社員の生活と仕事のバランスに対する配慮が不可欠になってくるでしょう。様々な事案に対して、事細かに対応を施していけば管理の複雑性も高まり、管理コストも上昇する可能性があります。
 この様な、人的経営資源の原価と、その管理コストが上昇していくとすれば、従来通りの人事マネジメントを踏襲していては、企業の生産性が低下していくことになります。 

 先ず、「一億総活躍社会」の実現に向けて、多様な人材を雇用し、最大限に成果をあげさせるマネジメントの仕組みを再構築するか、既存のマネジメントを踏襲するかについて吟味し、意思決定することが重要と考えます。既存のマネジメントを前提する場合、人材の多様化には消極策をとることが大切です。
 例えば、処遇の在り方一つをとっても、幅広い人材が、必ずしも高い役職や収入を求めているとは限りません。
 「女性活躍」において、女性が働き続けやすいように、出産・育児休暇や時短ワークなど、制度・ルールの整備が進みました。しかし、休暇や時短の社員が所属するチームは、他の通常勤務の社員が業務をカバーする状況に陥りがちで、堂々と制度を利用できる包括的な運用でないケースがみられます。他の社員の負担が増し、結果的に制度を利用する女性社員が肩身の狭い思いをしていると言います。
 また、労働時間削減の為、残業時間帯にはPC電源をOFFにするケースでは、労働意欲の高い人材のモチベーション低下が発生する懸念があります。この様に、既存のルール・仕組みの改修・個別修正の対応では、主力人材のフラストレーションをため、モチベーションを低下させる本末転倒な事態や、個別対応によって複雑化した管理やオペレーションによるコストアップにつながりかねません。既存のマネジメントを踏襲している限りは、求める人材に集中し、採用の競争力を高めることが重要です。

 一方、人材の採用・雇用・管理コストが上昇する経営環境において、社会の人口構成と、社員構成を近似させていく場合、人と時間を顧客価値に直結する仕事に集中し、人と時間を大量浪費する非付加価値のルーティンワークに費やさないこと、そして、多様な人材に対応したルール・仕組み・管理運用を、出来る限り公正かつシンプルにし、管理コストを低下させることが大切です。
 公正かつシンプルであるとは、幅広い人材のモチベートという観点を含みます。多様な人材をモチベートし、より大きなパフォーマンスを引き出す為には、画一的なトップダウン・アプローチは適しません。新たな人材マネジメントを考える際、「如何に、全社のビジョンや戦略目標を、組織・個人に落とし込むか」ではなく、「如何に、個々の社員から自律的で最大限の成果目標を引き出し、戦略につなぎ込むか」が課題となります。
 人事評価に関わるMBOは、戦略目標を組織・個人に割り振る運用になりがちですが、MBO(Management by Objectives and Self-control)を提唱したPeter F. Druckerは、その利点を、“自らの仕事を自らマネジメント出来るようになることにあり、自己管理が強い動機付けをもたらす。”としています(※5)。また、心理学者のEdward L. Deciは、統制による外発的な動機付け(例えば、罰による脅迫、課題の割り当て、指示命令、競争など)は、個人の自律による内発的な動機付けを下げる結果を指摘しています(※6)。つまり、統制による目標管理はDruckerの意図する状態ではなく、多様な人材をモチベートし、全体のパフォーマンスを引き出す為には、自律的な目標設定を重視する必要があります。
 先行事例として、カルビーやユニ・チャームは、従業員個人が達成したいと考える目標を、マネジャー職が引き出し、組織の中でオープンにする仕組みを整備しています。透明性と公平性を以て、多様な人材の生産性向上を実現しています。

 繰り返しになりますが、労働力人口は激減し、人材の希少性は高まります。その様な中、社員に定型業務のみを実施させて社員の生産性を低下させては、マネジメントとは言えません。今後、新たな労働力の確保は徐々に困難度が高まります。その様な中、既に雇用した社員を前提に最高のパフォーマンスを発揮する必要があります。育児中の女性であれ、体調にトラブルを抱える高齢者であれ、ワーカホリックな人材であれ、本人が自律的にコミットメントする最大限の目標を引き出し、その成果を実現させるサポートの重要性が高まると考えます。

 「女性活躍」においては、既存の人材マネジメントの在り方を部分修正することで対処した企業も、今後は従来の常識にとらわれない発想をもって、抜本的に企業と人材の在り方を変革しなければ、競争優位を失いかねません。直面する経営環境の変化を、多様な人材の活性化と、企業の成長の機会として捉え、高度なマネジメントを実現する企業が増えてくることを期待します。

<出典>
※1:総務省統計局データ
※2:内閣府(労働力人口と今後の経済成長について 「成長・発展」補足資料)
 (今後約50年で、労働力人口1170万人減少。女性活用などが進まないケースでは2782万人減少と試算)
※3:総務省統計局(人口推計の結果の概要、平成28年1月報)
※4:リクルートワークス研究所予測データ
※5:Peter F. Drucker(マネジメント[上]―課題、責任、実践)
※6:Edward L. Deci(人を伸ばす力―内発と自律のすすめ)

トンコツ

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