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ビジネスパーソンにとって大事なことは、人生の最初の5年で教わっている

この頃は、都内では桜はもうすっかり散り、緑の葉を茂らせ始めており、何となく春が終わってしまったかのような気分になる。かといって初夏と呼ぶにはまだ早く、徐々に季節が変わっていくことを肌で感じることができる心地よい時季だ。日々忙しい中でも、こうした季節の移ろいを感じ、それに心地よさを感じるようになると、自分も歳を取ったものだと思う。

4月に入社式を迎えた世の中の新入社員たちは、そのような季節の移ろいを感じる余裕はないかもしれないが、入社式や研修で社長、上司、先輩などの話から、自分自身の見られ方や自分自身への周囲の期待が今までとは違う、という変化を感じ始めたに違いない。とはいえ、その変化を感じて、学生気分からビジネスパーソンの意識に切り替えるまでには、まだまだ至っていないだろう。

そのため企業は、何とか早い内に新入社員の学生気分を抜き、自社の戦力となるように工夫を凝らした研修をしている。私自身、新入社員の育成やや新入社員のトレーナーを務める先輩社員の育成に関わらせて頂くことがある。その中で、現場(新入社員の配属先)から、新入社員に最初に教えて欲しいこととして、よく挙げられることが

・ビジネスパーソンとしてのマインドセット

・ビジネスマナー

・仕事の仕方の基本(報・連・相、指示の受け方など)

である。もちろん、それぞれの会社の理念や事業内容を理解していることは大前提であるが、細かい業務知識やスキルよりも、まず上記3つをしっかりしておいてほしいという要望である。

そこで、現場が懸念するような新入社員にならないようにするために、どのようなプログラムにしようかと調査、検討を重ねるのだが、ここで面白いことに気がつく。新入社員、またビジネスパーソンに対して一般的に指導することが望ましいとされている内容と、育児中にこのように子供に教えよう、と言われていることが概ね一致しているのである。もちろん、ビジネスパーソンの指導と育児ではシチュエーションは大きく異なるが、基本的なことはあまり変わらない部分が多い。

その中で、今回は神戸大学の西村和雄特命教授が行った躾と所得に関する調査とペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース博士が提唱している「GRIT」を取り上げてみたい。いずれも、2013年に公開された(ダックワース博士はTEDでプレゼンし、西村特命教授の調査結果は毎日新聞に掲載された)ので、ご存じの方も多いかもしれない。

西村特命教授の「躾と所得」に関するインターネット調査は、なかなかショッキングな記事だったので覚えている人も多いかもしれない。この調査の結果によると、以下の4つの躾を幼少期に受けていない人は、その躾を受けた人に比べて、年収が86万円も少なくなるという。

4つの躾

 ・嘘をついてはいけない

 ・他人に親切にする

 ・ルールを守る

 ・勉強をする

さて、上記4つの躾を見た方は、どう思うだろう。そう、至極当たり前のことなのだ。しかし、確かに職場で起きている問題や自分がやってしまった失敗を振り返ると、それらは上記4つのいずれかに反したことが原因であることが多い。そして、自分の失敗談として後輩に話せるものは可愛いが、いわゆる企業の不祥事や重大事故と言われるものでさえ、上記4つに反したことに起因していることが多いことに改めて気がつく。

そして、上記4つの躾をビジネスの現場に置き換えて考えて見ると、現場が新入社員に対して教えて欲しいと期待しているビジネスマナーや仕事の仕方の基本と何ら変わりは無い。つまり、現場はこの4つがないことが、現場で大きな失敗、事故に繋がることを良く理解しているが故に、躾が出来ている新入社員かどうかに関係なく、全ての新入社員に対して改めて、しっかりと躾をした上で、現場に配属して欲しいと願っているのである。

このような躾を今更と思うかもしれないが、学生とビジネスパーソンとでは、守るべきルールはより多く、より細かくなるし、自身の些細な嘘やミスが与える影響は新入社員たちが考えている以上に広範囲に及ぶ。知らないのだから、これは丁寧に教えてあげる必要があるだろう。但し、それが本人たちに定着するかどうかは、自分たちの日頃の行いにもかかっている。新入社員達は、上司、先輩が思っている以上に、客観的に職場を見ているものだ。そこで、4つの躾を率先垂範できていないようであれば、新入社員に求めるのは無理な話である。

次に、ダックワース博士が提唱する「GRIT」だが、「GRIT」とは「やり抜く力」のことであり、それは「長期的な目標の実現に情熱を持ち、その目標の実現に拘って、忍耐強く、継続的に、目標を達成するまで取り組み続ける力」のことを指す。正に、ビジネスパーソンとして期待される役割や成果を達成するために必要な力だ。この力が必要だと理解することは、現場が新入社員に教えて欲しいと期待しているビジネスパーソンとしてのマインドセットにも繋がるだろう。

では、どうすれば「GRIT」を伸ばせるのか?ダックワース博士によると有効なのは「成長思考(スタンフォード大学のキャロル・ドウェック博士が提唱)」をもつことだという。「成長思考」とは、「人は学習する能力は固定しておらず、本人の努力によって変えられるものだという信念を持ち、失敗してもあきらめない思考」のことである。つまり、自身の可能性を信じ、決して諦めないというマインドセットが、GRITを伸ばす上では必要になる。

しかし、この自分の可能性を信じて決して諦めないという思考を、短期間で且つ本人の努力だけで身につけるのは難しく、周囲からの働きかけが必要不可欠である。具体的に育児の場面だと、何かできた時に「良く出来たね」と完了形で褒めるのではなく、「良く出来たね、これを継続していけば、もっとすばらしいものができるよ」など、継続を促し将来の姿を褒めることだ。そうすることで、子供は自分の可能性を信じ、新しいことにチャレンジするようになる。一方、「良く出来た」と完了形で褒めることは、脳がこれで終わりだ、もう努力しなくて良いのだと判断し、成長を止めてしまうのだという。

これは、ビジネスパーソンの育成でも、全く同じことが言える。ビジネスパーソンを育成する上でも、職務経験を通して成長を促すことが最も重要であるが、経験して成長したことを褒めて終わってしまうと、これで良いのだと思い込み、それ以上の改善も工夫もしない、考えない人になってしまう。そうならないようにするためにも、新入社員の育成に関わる上司、先輩は完了形ではなく、将来の姿を共有しながら褒めて、継続を促すことで、新入社員のGRITを伸ばさなければならない。つまり、この点も、結局は現場が人事部に任せきりにするわけにはいかず、自らも省みながら新入社員の手本となるよう実践しながら、指導することが求められる。

このように、新入社員が最初に理解すべきビジネスパーソンとしての大事なことを振り返ると、入社してからではなく、実は「人生の最初の5年」で教わっているはずだということが、良く分かる。そう考えると、入社後の研修やOJTでは手遅れではないかと嘆きたくなる人もいるかもしれないが、そんなに悲嘆することはない。入社してからでもGRITを伸ばし、正しく躾けることは充分に可能だ。但し、その為には、周囲の大人(上司、先輩)が、良い大人でなければならないが。

子供はよく親のマネをする。だから親は、子供の前では、些細なルールや約束でも破るわけにはいかないし、下手なことも出来ない、という多少の緊張感と責任感がある。新入社員に関わる上司、先輩も、同じように多少の緊張感をもって仕事に取り組むことで、新入社員に好影響を与える良い親であり、兄姉となってもらいたい。私も、今日は子供と風呂に入りながら、親として大事なこと教えてあげられているか、省みてみよう。

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