7月10日に参議院選挙が行われました。例年通り大した争点もなく、投票率は54.7%で前回を2ポイントほど上回ったものの、総じて盛り上がりに欠けた選挙でした。参議院選挙は、3年ごとに議員の半数が改選されるだけなので、政権交代に繋がることが無く盛り上がる要素が少ないばかりか、選挙区が全国であるという関係で、政治家としてのポテンシャルが感じられない名が売れているだけのタレントが多く擁立されることも、投票率が低くなる原因の一つとされています。中でも投票率を下げる最も大きな要因は、一体何を選択すべき選挙なのか、今回の選挙の意義はどこにあるのか?が全くわからないことです。英国のEU離脱賛否の国民投票の投票率は72.1%、2005年の衆議院選挙(郵政選挙)の投票率は67.5%、大阪都構想賛否の住民投票は66.8%でした。わかりやすい争点があることで、投票意欲が高くなることの証左といえます。
投票率が低いことは、選挙基盤がしっかりしている自民党や公明党、共産党には有利に働きますが、浮動票や無党派層を頼りにしなくてはならない党は議席を減らす(選挙に負ける)要因になります。野党が選挙に勝つためには、選挙を盛り上げていつもは選挙に行かない有権者を投票に向かわせることが、選挙戦略上の最優先事項といっても過言ではありません。しかし現在の野党は、与党や内閣の批判や揚げ足取りにご執心で、与党政策に対する”極めつけ”の代案や独自の政策を提示することができず、また野党が共闘することもできないままに、一部の選挙区で候補者を一本化するのが精一杯でした。
野党が魅力的な代案を出せないのは、政治的イデオロギーによって主張や政策に大きな差を出すことが難しくなっていることに起因しています。かつては、政治的イデオロギーによって、「右派か左派」、「革新か保守」のような2極構造を演出することができましたが、現在は右も左もなく、革新系やリベラル勢といっても、保守の対極に位置するのではなく、保守に極めて近しい位置にいます。全ての問題に対して、国際社会での秩序を重視することが前提として、国益につながる政策を考えなくてはならない以上、それぞれの政策が似通ってくるのは仕方が無い面もあり、軍事問題でもTPPでも、与野党関係なく同じような対策にならざるを得ません。あの共産党でさえ、自衛隊は違憲だが容認するような姿勢に変化しつつあるのも、そういった国際社会の流れに合致しないと絵に描いた餅にすらならないからです。
しかし、環境がどうであれ、野党が野党としての存在感を出さなければ、政党政治の意味がありません。野党の存在価値は、与党に対する政策チェック機能と、政策に対する代替案の創出機能です。アベノミクスが失敗だと批判するのであれば、その代替案を提示しなければ、単なる”ヤジ”集団でしかありません。
ここで、新たな勢力として国民に認知され、与党と対等以上に戦うための秘策を提案したいと思います。
選挙戦を戦うためには、政党の掲げるコンセプトを明確にして、与党との違いを鮮明にする必要があります。政策的に与野党共に大きな違いを出せない以上、違っているように見せていく演出が重要です。特に、与党との対決の構図をはっきりさせるためには、有権者にとっての敵(与党)と味方(自党)をはっきりさせて、わかりやすく色づけてしまうことです。選挙戦をわかりやすい2極対向の構図に整理して、対立軸を鮮明にしてしまおうというものです。2極対向の例としては、「男性対女性」、「若年層対高齢層」、「高所得層と低所得層」、「国民と移民」、「正規労働者と非正規労働者」など、いくつも考えられますが、与党に対抗する自党が選挙で支援すべきは2極の中で明らかに弱者だと思えるほうです(弱者のほうがマジョリティであることが多いため)。なお、与党と野党は明らかに2極対向ですが、これは当たり前すぎて争点になりません。
ここで、有権者に対して自党の政策コンセプトと与党との差別化要素をはっきりと認識してもらうための2極対向をベースとした選挙コンセプト案を2つ紹介します。
◆低所得者層と高所得者層との対立構造を作り出す
小泉構造改革から始まりアベノミクスで貧富の差が一挙に拡大したことは様々な数値データで検証されています。この格差は世界的にも進行しており、やがて国家を二分して内戦になっても不思議ではないとする学者もいるくらいです。アベノミクスの三本の矢によって、企業の内部留保は大きく増えましたが、物価と賃金は一向に上がらず、税制改革と金融政策によって、富裕層は一気に所得を伸ばした一方、中所得層以下は所得の低迷で徐々に低所得層に埋没しはじめました。このことから、アベノミクスは高所得者重点優遇政策であり、所得格差は拡大するばかりの失政であるとし、格差の是正こそがデフレから脱却し景気を浮遊させるための重点施策であることを基本概念として、低所得者層を全面的に優遇し、高所得者層には厳しくするような政策を党の旗印として有権者に提案します。政府与党の「高所得者優遇政策によるデフレ脱却=アベノミクス」を選ぶか、我が党の「低所得層再生政策によるデフレ脱却=(仮称)ライジングサンプラン」を選ぶかを争点とした選挙戦に持ち込みます。
具体的な政策は、中低所得層への所得税や住民税の減税、医療費補助、教育費補助などを行って、生活が楽になるような支援を行っていく。一方高所得者層には、所得税率の大幅引き上げ、相続税、贈与税の課税下限の引き下げ・基礎控除の縮小・税率のアップ、2世代前からの相続資産に対する固定資産税率引き上げ、脱税・税逃れなどの厳罰化や資産没収などです。企業には法人税の適用の見直し、優遇税率、営業赤字繰り越し控除の廃止などで、実質的な税収アップにつなげます。これらを原資にして中低所得者の再生をバックアップするプランを国民に問うということです。この案のポイントは、中低所得者が国民の多くを占めること、その中には投票を棄権している無党派層も多く含まれているので、これら浮動票を一気に取り込むことができるということです。
このように党が掲げる政策と与党との対決ポイントをはっきりと明示することで、有権者は何を選択しなくてはならないかをはっきりと認識し、どの党の政策(公約)が自分たちのメリットにつながるかによって、候補者や政党を選ぶことができるようになります。
◆高齢層と若年層の対立構造を作り出す
今の政治はシルバー民主主義と言われるくらい、高齢者優遇の政策が展開されています。超高齢化社会を迎えている日本では仕方ない側面もありますが、それにしてもその代償を若年層に覆い被せすぎています。これは、若年層が投票を放棄しているため、候補者は票が見込める高齢者に対するアピールを強めることしかしなくなり、それが今のように高齢層には手厚く、若年層には手薄な環境ができあがっているのです。
ここで、今の政府与党の「高齢者優遇政策」により、若年層の貧困や就業機会の減少につながり、若年層が活躍できない環境が形成されているという問題認識から、「若年層リ・コンストラクションプラン」という政策を掲げ、高齢者優遇=若年層冷遇政策を全面的に見直し、若手が成長・就業・結婚・出産という人生のライフイベントを充実できるように全面的に支援する政策を争点にします。現在の「高齢層優遇政策」を選ぶか「高齢層優遇を緩和し、若年層リ・コンストラクションプラン」を選ぶかの選挙ということです。
具体的な重点政策としては、年金支給対象者のより細かい選別(高所得者、一定以上の資産を持つ人などは除外)を行い、裕福な高齢層への年金支給時期の先送りと減額によって、年金支給総額を抑制し、若年層からの年金徴収額の減額につなげます。また高齢層の医療費の増大に歯止めを掛けるために、保険点数の全面的な見直し、ジェネリック医薬を基本としてそれ以外の薬品に対しては、高齢層にも3割負担を求めるなど、高齢層に使われる税金や公的資金を大きく減額します。
それらの原資を活用して、新卒から25歳までの若年層には、社会人スタートアップ支援として、各種税金の限定優遇と、自己学習や自分磨きに関する投資は所得控除されるような仕組み、早期に家庭や子供を持った若年層には、政府補助金は子育て支援減税などを行って、国を挙げて生活をバックアップするなど、若者の生活の安定と能力向上に対して手厚い政策に大きく転換します。もちろん将来的には若年層も高齢層になるので、極端な政策はとれませんが、高齢者優遇を緩和させようという意思は、若年層には伝わるはずです。これによって、投票行動につながらない若年層の投票率が60代と同じレベルにまで上がってくれば、与党と十分に勝負ができるはずです。
なお、ここで提示した具体的な政策は、これまで野党が言ってきたことを引用したもので、なんら新しいものではありません。総論としてアベノミクスを批判しているだけでは、「では、何がしたいのか?」「では、どうすればよいのか?」が全く伝わりません。自党が支援したい対象を鮮明にすることで、具体的政策の狙いや一貫性がはっきりとわかりやすくなります。そのためにも2極対向は有効な手段です。
次の衆議院選挙の時期は安倍首相の意思決定次第でしょうが、野党は今から10年後の政権交代を目指して周到に準備し、マスコミを通じてアベノミクス批判を繰り広げ、自党が支援したい層に対する優遇政策を発信し続けることで、アベノミクスVS自党の政策がはじめてできあがるのです。後の趨勢は有権者が判断します。
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