ポケモンGOが世界で大流行している。
ポケモンGOの驚異的な普及速度は、『ポケットモンスター』というコンテンツの巨大さに裏付けられている。前身であるスマホゲームIngress(イングレス)の普及状況、3年間で1400万人(約200ヶ国の市場対象)という数字が、その根拠だ。
ポケモンGOは、驚異的なスピードで普及し、瞬く間に世界中の人々の行動を変えた。この事実は、企業活動の今後の方向性に重要な気付きを与えている。“個人の行動変化”と、“個人間の情報伝達”という2つの着眼点から、ポケモンGOが企業活動に与える示唆について、以下に論じていきたい。
一つ目の着眼点は、“個人の行動変化”についてである。
遊びとは、あるはっきり定められた時間、空間の範囲内で行われる自発的な行為、もしくは活動である。
サッカーや野球のW杯、オリンピック、ツール・ド・フランスなどのスポーツの祭典、リオデジャネイロのカーニバルなどの祭り、ロック・フェスティバルやクラブイベントなどの音楽イベントというように、世界中の人々を熱狂させる催し事の多くは、「遊び」であり、世界共通、人は「遊び」にこそ夢中になり、突き動かされる傾向がある。それは人間の本質を突いているからである。つまり、本質を突けば、人は動くということだ。
もう一つの着眼点は、“個人間の情報伝達”についてである。
企業活動には一定の規模が必要である。現代ビジネスのパラダイムにおいて、市場を細分化し、個人の嗜好性まで追求していけば、企業活動の生産性低下からは逃れられないだろう。一方で、ポケモンGOの巻き起こした社会現象は、人間の本質を突いたサービスとコミュニケーションを実践できれば、前人未到の規模とスピードで世界に普及し、新しい価値を実現できるという証明であり、ビジネスの新たなパラダイムを示唆するに十分な現象である。
※:アメリカ市場におけるポケモンGOのユーザー比率を見ると、50代以上が6%と低く、『ポケットモンスター』で遊んだ世代を中心に普及していることがわかる。また、日本国内においても、新規メディアは若年層の利用率が大きく、高齢層はTV視聴率が高いことからも、全ての世代でシフトしているとは限らない。 トンコツ
このゲームがローンチされて数日の間に、突如として世界中に“ポケットモンスター“の採集家が現れ、集い、探索するという社会現象が起きている。
着目すべきは、「ゲームの驚異的な普及速度」と「世界中の人々の行動を一瞬で変えた」という事実である。
ユーザー数が5000万人に到達するまでの期間を比較すると、Facebookが1325日、ツイッターが1096日、LINEが399日、スマホゲームの最速記録が77日、ポケモンGOは19日(Androidのみ、iOS除く)であり、その驚異的な拡大スピードは過去に例の無いものであることがわかる。更に、約1ヶ月で34カ国に展開し、ユーザー数は1億人を突破した。Facebookの16億人、WhatsAppの10億人、WeChat の7億人、Instagramの5億人、LINEの2億人という規模には至っていないが、今後200ヵ国に展開する方針であることから、更なる規模の拡大は間違いない。
『ポケットモンスター』は、関連ソフトの累計販売数が全世界2億8000万本以上、関連グッズ含めた市場規模は約4兆6000億円以上と言われており、世界屈指のコンテンツである。近年ブームとなった『妖怪ウォッチ』の関連ソフト累計販売数が800万本以上、関連グッズ含む市場規模が約2000億円規模という数字との比較からも、コンテンツの巨大さがわかる。
AR(拡張現実)やGPS(全地球測位システム)の技術、ゲームのわかりやすさ、ローンチのタイミング(夏休み前)などは、社会現象を引き起こす一端にすぎず、その真因はコンテンツの影響力にある。見方を変えると、ポケモンGOの大流行は、『ポケットモンスター』の世界的な影響力を証明する現状であり、任天堂は、20年間をかけて、世界中の人々を遊びに駆り立てる巨大コンテンツを育てたのだ。
世界中の人々が、夢中になってポケモンGOで「遊ぶ」姿を目の当たりにし、ヨハン・ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』を思い出した。氏は、人間の本質を「遊び」に見出し、『遊びは文化よりも古い。ホモ・ファーベル(作る人)よりも、ホモ・ルーデンス(遊ぶ人)が先にある。』という前提を説いた。人は、先ず「遊び」があり、そこから文化が形成されるという考え方である。「遊び」の本質は、ホイジンガの定義の中にある。
それは自発的に受け入れた規則に従っている。その規則はいったん受け入れられた以上は、
絶対的拘束力をもっている。遊びの目的は行為そのもののなかにある。それは、緊張と歓びの感情を伴い、
またこれは「日常生活」とは「別のもの」という意識に裏づけられている。
ビジネスにおいて、人(お客様や従業員や株主など)の行動に影響力を持つことは、いつだって最重要課題である。しかし、「遊び」という着眼点からビジネス活動を見ると、その多くはアプローチを間違えているか、最適とはいえない。
それは、「如何に人“の”行動を変えるか(如何に人の行動に影響力を行使できるか)」が、現代ビジネスのパラダイムだからだ。例えば、著書「影響力の武器(なぜ、人は動かされるのか)」に代表される心理学的アプローチも、行動経済学的アプローチも、行動科学的アプローチも、リーダーシップ理論の様な実学でも、このパラダイムの中で議論を尽くしている。また、近年注目を浴びているゲーム・メカニズムの社会的活用(ゲーミフィケーション)も、日常の行動にゲーム性を付加するという発想であり、「如何に人“の”行動を変えるか」というパラダイムにおける概念である。
しかし、人間の本質が「遊び」であり、「遊び」が、絶対的拘束力を持つ規則を“自発的に”受入れ従う行為であるならば、「如何に人“は”行動を変えるか(如何に人は自発的に規則を受入れるか)」を論じるべきである。そして、ポケモンGOは「遊び」であり、その新規性は、「遊び」という非日常(日常生活とは別のもの)の行動を、日常の行動とリンクさせたことにある。「遊び」が持つ影響力を、現実の社会・経済に転化することに成功した史上初の事例だといえる。日本マクドナルド社が早速ポケモンGOに目を付けマーケティングに活用しているが、同社の業績が回復していくようであれば、このパラダイム・シフトに注目せざるをえないだろう。
ポケモンGOの社会現象から気が付くべきは、「新規メディア(個人間のコミュニケーション・ネットワーク)が、既存メディア(マスコミを含む一方的なコミュニケーション手段)を超越する伝達力を持ちえた可能性に注目しなくてはならない。」ということだ。
ポケモンGOが日本にローンチされる前に、FacebookやツイッターやYouTubeやInstagramなどのSNS、WhatsAppやLINEのメッセンジャーアプリを通じて、世界中の個人がポケモンGOをプレイする写真や動画を、何度も目にした方も多いだろう。ポケモンGOは新規メディアを通じて、既存メディアでは成し得ない、驚異的な普及スピードを現実のものとした。
正確には、ポケモンGOは、先行してローンチされた市場において既存メディアのCMが打たれ、日本国内においても度々ニュース・トピックとなった為、既存メディアの利用価値がなくなったわけではない。しかし、この変化を端的に表現すると、「”トヨタの情報を毎日は目にしないが、アリアナ・グランデ(アメリカの歌手)の発信情報は毎日欠かさず見ている”という個人が、数千万人という規模で存在する」ということだ。
新規メディア(個人間のコミュニケーション・ネットワーク)は、個人が主役であり、企業や組織は主役たりえない。例えば、Instagramユーザーのフォロワー数を見ると、その上位は個人が独占しており、海外ユーザーのトップグループは、フォロワー数が9000万人規模にのぼる。企業・組織の投稿と、個人の投稿に対する共感数を見ても、そこには歴然とした差が存在する。
先進的な企業は、このネットワーク活用をスタートしているものの、水原希子(日本のモデル)がPanasonicのドライヤーを投稿する、或は、滝沢眞規子(日本のモデル)がサントリー天然水を投稿すると、通常よりも共感数が低下するというのが現状である。
フィリップ・コトラー氏は、「マーケティング1.0=製品中心主義、2.0=消費者志向、3.0=価値主導、4.0=自己実現」というマーケティングの段階を提唱した。そして、一部の世代(※)では確実にマーケッティング4.0にシフトしているが、企業は1.0から抜け出せない現実を示している。提供者の論理を第一優先とする姿勢を変えない限り、驚異的な伝達力を持つ個人間のコミュニケーション・ネットワークは、十分に活用できないものと捉える必要がある。ポケモンGOに見るコミュニケーションの変化は、マーケティング活動全体の抜本的な変革を迫る警鐘だといえる。
新たなパラダイムにおいて、人間の本質に根ざした「遊び(緊張と歓びの感情を伴う、自発的な行為)」を創造し、結果的に個人の“自己実現”を支援できる新たな価値を実現していくことができるならば、それは現代の企業人にとって最高の「遊び」ではないだろうか。
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