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「ちょい飲み」ブームの終焉は!?

 「お酒の席」といえば、職場の人や友人とワイワイやる、というイメージがありがちだが、近年は「ちょい飲み」がブームと言われている。 2年連続「ちょい飲み」が、有力ヒット商品ランキングに挙げられたが(※1)、果たして定着まで至るのだろうか。

 「ちょい飲み」とは、仕事帰りにファストフードやファミリーレストランなどに立ち寄り、お酒を一杯と少しのつまみを、短時間で楽しむものだ。元々は、赤ちょうちんを出す駅前の小さな立ち飲み屋で見られたこの業態だが、吉野家が先陣を切って2015年に「吉呑み」という名称で始め、それが人気を集めたため、今では全国チェーンの飲食店、ファストフード店でも提供されるようになった。今年の春先からは、大手コーヒーチェーン店の「スターバックス」が、「スターバックス・イブニングス」の名で、“仕事帰りに軽く1杯”の新業態を展開している。

 若い女性も抵抗なく立ち寄れるお店で軽く1杯、というトレンドにより、男性だけでなく女性にも裾野が広がった「ちょい飲み」。実際にはどのように利用されているのか。調査結果からは、次のような実態が見えてくる(※2)。

  ①1回あたりの支払い:「1,000円以上1,500円未満(30%)」が最も多く、全体のおよそ7割が「2,000円未満(71%)」
  ②1回あたりの滞在時間:「30分以上60分未満(41%)」が最も多く、全体のおよそ8割強が「60分以上90分未満(29%)」
  ③行く時の人数:「2人(41%)」が最も多く、全体のおよそ7割が「自分ひとり」や「2人」という少ない人数
   また、「2人」以上と回答した人の一緒に行く相手:「プライベートの友人(49%)」や「職場の同僚(45%)」が9割を占める。

 一方、厚生労働省のデータによると(※3)、一般労働者(フルタイム労働者)の賃金は、2001年の505万円をピークに減少傾向となっており、物価の上昇を考慮した実質賃金で見ても、5年連続でマイナスとなっている。消費を抑えざるを得ない経済状況において、少しでもリーズナブルに飲みたいという切実なニーズに「ちょい飲み」がマッチしていると考えられる。

 では、この「ちょい飲み」ブームは、いつまで続くのだろうか。以下、消費者動向の視点から整理してみる。

 1.日本人の飲酒のライフスタイルの変化

 アサヒグループホールディングス株式会社の調査(※3)によると、過去5年間で「家飲み」の傾向が高まっており、日本人の飲酒のライフスタイルは、居酒屋などの「外飲み」から、気軽に飲めて節約もできる「家飲み」にシフトしていることがわかる。調査による主な傾向は、以下の通りである。

  ①5人中約4人(約8割)の人が「週2回以上」の高頻度で、「家飲み」を楽しんでいる。
  ②「家飲み」の魅力は「リラックスできる、落ち着く」(45.8%)など、自分のペースでお酒が楽しめるという理由が多く寄せられた。
  ③半分以上の人が「家飲み」を「一人で」楽しむスタイル(52.6%)。結婚や家族構成の変化など、年代と共に家飲み相手が少しずつ変化。
  ④1カ月間にかかる「家飲み代(お酒の購入代)」で最も多いのは「2,000~3,000円」。
  ⑤「家飲み」でよく飲むお酒は1位「ビール」、2位「缶の発泡酒・新ジャンル」。

2.”ほろ酔い”消費の拡大

 消費者の健康志向が強まる中、酒類でアルコール度数が低い商品(3%)の売り上げが拡大しており、外で“ワイガヤ”するよりも、家でリラックスしながら“ほろ酔い”することが、今の主流であることが見えてくる。酒類メーカーの主な動向は、以下の通りである。

  ・サントリースピリッツは缶チューハイ「ほろよい」ブランドの2016年販売目標を、当初計画より110万ケース多い1350万ケース(前年比10%増)に上方修正。
  ・アサヒビールは度数3%の「カルピスサワー」などが好調。6月の売り上げは前年同月比47%増。1―6月の累計もプラスで推移している。
  ・サッポロビールは、9月に度数3%の赤・白ワインを投入し、平日でも気軽に飲める低アルコールワインで新市場を開拓しようとしている。

 なお、昨今の酒税法の見直し(ビール、発泡酒、第3のビールという3ジャンルごとに異なるビール類の税率一本化を目指す)も、「家飲み」傾向を見越したものになっていると考えられる。

 以上、消費者動向からは、”リラックス”、”家計に優しい”、”気軽に飲める”という3つのポイントが、現在の潮流であることが伺える。
 だとすると、現在の「ちょい飲み」ブームが長続きし、新たな食文化にまで発展していくのは難しいと考えられる。なぜなら、「ちょい飲み」は、家計に優しく、気軽に飲めるという点では、現在のライフスタイルの変化に合わせたものと言うことができるが、「リラックス」という点においては、消費者の志向にマッチしたものではないからだ。実際、ファストフード店などで、コの字型カウンターで他の客と互いに向き合ったり、壁を前にしたりして飲むというのは、特に1人飲みでは侘しさが募るのは想像に難くない。それならば、コンビニやデパ地下で惣菜を買って帰り、自宅でゆっくり飲んだ方がマシだと考える人も多いに違いない。仮に、「リラックス」を追求しようものなら、家計に厳しくなり、サクッと気軽に飲むという特徴を失うことになりかねないばかりか、従来の居酒屋の業態に近づくことも考えられる。従って、今後は徐々に淘汰されていく可能性が高いだろう。
 お酒好きとしては、「ちょい飲み」が、「家飲み」に代わる形で、「リラックス」「家計に優しい」「気軽に飲める」を提供できる日が来ることを期待するばかりである。



<出典>
※1:(情報誌「日経トレンディ」(日経BP社)の2015年の「ヒット商品ベスト30」で7位、2014年にも「日経MJ ヒット商品番付2014」で、「NISA」などと並び「前頭」にランキング)
※2:マクロミル 『「ちょい飲み」に関する調査』 http://www.macromill.com/honote/20160628/report.html(2016年6月)
※3:厚生労働省 『賃金構造基本統計調査』http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/detail/
※4:アサヒグループホールディングス株式会社 『「家のみ」に関する意識調査』 http://www.asahigroup-holdings.com/news/2014/0708.html (2014年6月)

ノラ猫


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