競争戦略では、競合する相手に勝つことで、自らの思い、ビジョン、ありたい姿を成し遂げなければならない。そして、組織全体のビジョン達成のために敷かれる「部分戦略」は、当然ながら「全体戦略」と整合していなければならない。
ところが、「全体」と「部分」という関係でありながらも、テーマによっては、目指すものの優先順位が異なり、全体戦略と部分戦略の不一致が生じることがある。たとえば、国と地方自治体がそうだ。普天間基地の移設問題で、全体と部分、すなわち国と沖縄県が全面対決の様相に入っているケースだ。
国が辺野古移設にこだわるのは、①防衛省の利権、②米国の意向、③真に国防に不可欠、の3点と推論するが、③は喫緊の課題ではない。中国の海洋侵犯はあるにしても、中国軍艦・潜水艦と対峙するのは、米軍である必然性はなく、海上自衛隊の艦艇や航空機で十分と思われるからだ。
一方、沖縄県が県外移設にこだわるのは、県民の被害が大きいことの1点だ。騒音問題、事故の危険性はもとより、殺人、強姦、暴行等々痛ましい事件を繰り返す海兵隊を押し付けられている。衆参両院で沖縄県選出の自公の国会議員がゼロになってしまったことからも、反基地感情は根強いようだ。
国と沖縄県は、普天間基地の移設先を巡って、思い描く姿は正反対だ。だが、この国に生きるものとして、国と地方自治体、ひいては一方の国民ともう一方の国民が、泥沼の争いを繰り広げていることは、どのような理由であれ悲しいことだ。この二者に同じ方向を向かせるには、共通の利益を設ける、共通の敵をつくる、のいずれかで2者の優先順位を変えることしかないのかもしれない。
たとえば、国と沖縄県に「共通の利益を設ける」視点で、辺野古移設によって得られるだろう防衛省の利権を、沖縄県外への移設でより大きなものとして獲得させることはできないだろうか。これは、代替地さえ見つかれば可能な話である。既に述べた理由から、数十年先までなら、黄海を通って東シナ海へ進出する中国の対応を自衛隊に任せられると考えることもできる。
国会議員を介して防衛省が辺野古移設にこだわるのは、工事を含めた利権がほしいからだろうが、辺野古を埋め立てずとも、普天間基地内の環境汚染を口実に莫大な工事ができるのだから、米軍基地を自衛隊基地に衣替えする中で、十分に利権を得てもらえばよい。そうすれば、沖縄県の議席も自民党の懐に戻ってくるかもしれない。
国と沖縄県が「共通の敵をつくる」のはどうだろうか。ここでは、米軍基地建設の大義名分となっている共産主義圏の仮想敵国のことではなく、米軍、または米国政府を共通の敵とする選択肢を考えてみたい。
米国の次期大統領は、クリントン氏かトランプ氏のいずれかとなるだろう。このうち、トランプ氏は在日米軍の費用を全額日本が負担しなければ、海兵隊の撤退もあり得るとしており、大統領選でも当初の予想を上回って善戦している。前述の「②米国の意向」の変化も起きる可能性が十分にあるということだ。
この要求は、日本にとってメリットのない内容である。防衛省は、これまで自らが手にしてきた利権と予算の一部が、米国側に流れて分け前が少なくなることは避けたい。一方の沖縄県は、なぜ多額の予算を投じてまで県内に基地を置くのかと、ただでさえ激しい反基地感情が増す。
であるならば日本政府は、いっそのこと「米軍の全面撤退」や「沖縄県からの撤退」を打診してみてはどうだろうか。
防衛省にとっては、下手に自身の利権が脅かされるくらいならば、普天間基地を自衛隊基地に置き換えることで、未来永劫利権を確保できる状態ができる。沖縄県は、米軍基地がなくなるのだから万々歳でこれを受け入れる。
トランプ氏のスタンスは、国と沖縄県の双方にとって不利益となるものだ。共通の敵ができることにより、両者が手を取り合うことはあり得る。仮にトランプ氏が米国大統領に就任したとして、実際にこの政策を実行するかどうかはわからないが、彼の公約が実現できるように先手を打ってしまうことは、真剣に検討できないだろうか。
今、普天間基地の移設先を、国は辺野古一択としている。対して沖縄県は、戦後70年余りに渡り抑圧の中にあり、今年も尊い命を残虐な形で奪われ、米軍基地に拒絶反応を示している。
訴訟や諸法令活用のオンパレードを経て、対決姿勢を互いに強めている様を見るに、歩み寄りを考えるのは夢のまた夢である。
内向きの姿勢で双方が戦い続けることにより、「外交」という視点からこの問題を見下ろせば、いつまでも「全体」と「部分」の戦略が一致せずに内輪もめをしている状況は終わらないだろう。
安倍政権も翁長県政も、手を取り合った未来志向で物事を考えてみてもいいのではないかと思う。
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