News / Topics

最新情報

温暖化ガス低減目標達成には食品ロス削減が必要

 米中両政府は9月3日、2020年以降の地球温暖化対策「パリ協定」を批准したと発表した。世界の温暖化ガスの約4割を占める二大排出国の批准は同協定の発効への大きな前進である。昨年末のCOP21では196カ国・地域が史上初めて温暖化防止にともに努めると約束し、世界の温暖化への関心は大きい。しかし地球温暖化は深刻さを増している。  近年の温暖化により北極海氷は急速に減少しており、それがジェット気流の蛇行を引き起こしているという説があり、これがアメリカの歴史的な大干ばつや、5万5千人以上の死者が出たロシアの史上最悪の熱波など過酷な気象災害をもたらしていると考えられている(1)。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると産業革命以前と比べて年間平均気温の上昇はすでに0.85℃上昇しており、2℃以上まで上昇すれば20%から30%の動植物が絶滅の危機に瀕し、世界の都市部も水没しかねない状況となる。現在起こっている温暖化が人為的な温室効果ガス排出を原因としている以上、一人当たりの排出量が大きい先進国が率先して排出削減を行う必要がある。しかし、途上国がこれまで先進国が辿ってきたような経済発展を果たし、先進国並みの排出量に達した場合、人類が危機的状況に陥ることは想像に難しくない。温暖化を安全圏とされる2℃以下に抑えるためには、地球規模で行動しなければならない。  世界の動向を見てみると、国際エネルギー機関(IEA)は今月公表した世界のエネルギー投資に関する報告書で、2015年の世界全体のエネルギー投資額が、石油・ガス等の化石燃料関係の開発投資が前年比で25%減少し、省エネや再生可能エネルギー、原子力発電など温暖化ガス排出の少ない分野に投資の中心が徐々に移りつつある実態を示した。原油価格が下落したことで化石燃料依存への回帰が懸念されたが、各国の二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの排出の少ないエネルギーへの切り替え傾向は変わらなかった(2)。  一方、日本(温室効果ガス排出量が世界5位で世界全体の3.8%を占める)では、「パリ協定」を受けて温暖化ガスを30年に13年比で26%、50年には80%減らす計画を打ち出している(3)。  立派な数字だが果たしてこの目標は実現可能なのだろうか。日本の現状を見てみると、震災以降原子力発電所の稼働停止により、発電のためのエネルギーを化石燃料に依存せざるを得ず、エネルギー自給率は10年の19.9%から13年には6.1%まで落ち、二酸化炭素の排出量も増加することとなった(4)。  政府の対策案は、ゼロエミッション住宅やオフィスの普及、照明のLEDへの切り替え、エコカーの普及などで大幅削減を実現するとされているが(5)いずれも法律などで国民に強制することはできず、目標達成への道は相当に厳しい。電源の低炭素化も再生可能エネルギーの導入拡大と原子力発電所の稼働で発電部門での化石燃料の消費を抑える方針だが、再生エネの拡大を2030 年時点で 22~24%にするためには 、FIT の買取費用が現状の0.5 兆円から2030年には3.7~4.0 兆円に膨らむこととなり、国民負担の増大は避けられない。原発の再稼働も、住民の反対による運転差し止めなど、訴訟に発展するケースもあり、一向に進んでいない。  このように、政府が打ち出している大気中のCO2レベルの削減だけに偏った政策だけでは、大きな効果を期待することは難しく、異なる視点からの総合的な解決策が求められている。その一つが、農林水産省が発信している食品ロスの問題である。食料産業が消費するエネルギーは最大20%、二酸化炭素排出量は全排出量の10%以上と試算されており(6)、食品ロス問題に取り組むことは、温暖化に対する極めて有効な手段であるといえる。  FAOの報告書によると、農業産生産から消費に至るフードチェーン全体で、毎年世界の生産量の3分の1にあたる約13億トンの食料が毎年廃棄されている(7)。 食品廃棄量は、先進工業世界の方が圧倒的に多く、2011年度の消費者1人当たりの食料廃棄量は、ヨーロッパと北アメリカは95~115kg/年であるのに対して、サハラ以南アフリカや南・東南アジアでは、たった6~11kg/年である。低所得国における食料のロス・廃棄の原因は、主として、収穫技術の低さ、厳しい気候条件での貯蔵と冷却施設の不足、流通インフラや包装およびマーケティング・システムにおける財政的、技術的制約に関連している。一方、中・高所得国では、主としてサプライチェーンにおける各組織間の協調の欠如と 消費者の習慣にある。農家と仲買人の売買契約が、農作物の廃棄量に深く関わっていることもあり、食料は形状あるいは外見が完全でない食品を拒絶するような品質基準のせいで捨てられてしまう。また、消費段階では、食料を捨てることを躊躇しない消費者の意識に配慮に欠ける態度に加えて、不十分な購入計画による「賞味期限」切れによって、大量の食品が廃棄されることとなる。  日本においても、国内食料消費全体の2割にあたる年間約1,700万トンの食料が廃棄されている。このうち、本来食べられるのに廃棄される、いわゆる「食品ロス」は、年間約500~800万トンと推計されおり、これは世界全体の食料援助量の約2倍に相当する。  食料生産には非常に多くのエネルギーと水がつぎ込まれるので、廃棄量を減らすことが出来れば一度に多くの資源を節約できることになり、この膨大な量の食品ロスの削減は、食料生産に使われたエネルギーの無駄、食卓に至るまでのプロセスで発生するCO2を削減し、食料不足問題の解決や低炭素社会の実現にも貢献できるのである。  食品廃棄は流通ルートと最終消費地である家庭で発生するものに分類できるが、そのどちらにも当てはまる最大の要因は、食品の品質を保つための商慣習として設定されている3分の1ルール(食品の製造日から賞味期限までを3分割し、納入期限は、製造日から3分の1の時点まで、販売期限は、賞味期限の3分の2の時点までを限度とするもの)の存在である。流通ルートや家庭での食品ロスが起きる最大の理由は、食品の安全管理を消費期限に頼り切っていることだ。温度管理などが行き届いた環境で保管されていてまだまだ十分に食べられる食品であっても、消費期限を過ぎれば廃棄されることになる。消費期限は食品が腐敗する時期を大まかに見積もった目安にすぎず、実際に食べられるかどうかは個々の食品の保存状態や管理方法によって変わってくる。そこでIoTを駆使して個々の食品の状態をリアルに表示するような方法が考えられる。  例えば温度管理が不適切で、望ましくない細菌が増殖しはじめたりすると色が変化するような特殊な食品パッケージを使用すれば、食品の品質低下をリアルに知ることができる。また、食品の流通ルートの各所にセンサーを配置し、食品が放出する腐敗の前兆を知らせる微量なガスを検知し、その食品だけを廃棄するなど、個々の食品の状態をリアルにモニタリングすることができれば、廃棄量を最小に抑えることができる。  これらを実現するためには、農林水産省や経済産業省、環境省による省庁間の連携をより強め、食品の品質基準の抜本的な見直しはじめ、食料生産・保管・管理技術の研究に予算を投じ、税制優遇を行うような政策が必要だ。  また、消費者自身の意識変革も必要だ。一人一人が食に感謝し「もったいない」を意識する食育の浸透や、食品に表示されている「消費期限」の意味を知って、「消費期限」を過ぎた食品は危険で食べられないという認識を改め、見た目や触感に問題がなければ、少なくとも火を通して食べるなど、食品の廃棄に厳しい目を養う必要がある。  このように、温室効果ガスの削減には、再生可能エネルギーや電力効率化などの省エネ技術開発などへの直接的な投資だけではなく、官・民・消費者が一体となった、より総合的な視野から横断的な施策の導入が求められる。  政府、国民からの多様なアプローチで食品廃棄を防ぎ、省エネや温室効果ガス削減だけでなく、節水、食料不足問題へも貢献し、持続可能な社会の実現を願うばかりである。 (参考) (1)(日経サイエンスNo.214 「人類危機 未来への扉を求めて」2016//8/17) (2)「地球温暖化対策計画」の閣議決定について(環境省HP)     https://www.env.go.jp/press/102512.html (3)日本のエネルギー(経済産業省資源エネルギー庁資料)     http://www.enecho.meti.go.jp/about/pamphlet/pdf/energy_in_japan2015.pdf (4)地球温暖化対策について(環境省資料)     https://www.env.go.jp/council/01chuo/y010-23b/mat03_3.pdf (5)食生活におけるエネルギー消費の現状と課題     http://www.jcca.or.jp/kaishi/229/229_yasumoto.pdf (6)食品ロス削減に向けて(農林水産省)     http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/pdf/0902shokurosu.pdf

エウロパ
Contact

お問い合わせ

PMIコンサルティングでは、企業の人と組織を含めた様々な経営課題全般、求人に関してのご相談やお問合わせに対応させていただきます。下記のフォームから、またはお電話にてご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。