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スキル≦マインドの時代

3月決算の企業にとって10月は下半期のスタートである。この時期は様々なイベントが社内で行われる。上半期業績レビューや下半期の目標設定、中期経営計画策定時期と重なれば、次期中期経営計画の最終的な大詰めもあるかもしれない。また、新入社員のフォローアップもある。企業内の様々な営みがある中、ある企業の新入社員を集めた、半年後のフォローアップの場に同席する機会を得た。現場で数か月を過ごした新入社員の顔つきは、以前に比べてどう変わったのだろうか?比較はできないものの、その表情には、高揚、疲労、不満、興味、不安、期待、等々、数多の表情があるように感じた。 現場から離れたOff-JTの場で見せる彼らの表情の裏側には何があるのだろうか?何人かの社員に話を聞いてみる事にした。こちらから切り出した質問はこうだ。 「配属先が決まってから半年経過したが、仕事で何か困っている事はありますか?」 社員A:仕事というよりも、自分自身はどんな考えを持った人間なのかを疑問に思うようになった。 社員B:仕事先の組織長が、白いものを黒いと言ったらそれに従わなくてはならないのか? 社員C:派遣社員の一人が、何故か自分に絡んできてそれに辟易としている 社員D:異動することになり、職場の全員に感謝を述べたいがどのように伝えたらいいか 社員E:仕事がどんどん積み重なってきて、約束の納期に間に合いそうもないがどうしたらいいのか 社員F:酒の誘いを断りたいがなかなか断れないので、付き合わないようにするにはどうしたらいいのか 社員G:業務指示の再確認をすると「聞いてなかったのか?」と一蹴され心が折れた どれも人間関係や、コミュニケーションに関する困りごとだ。唯一A氏は、自分自身が対象であった。これらの生の声を目の当たりにし、フォローアップの内容と現実の困りごととの間に大きなGAPを感じざるを得なかった。新入社員は現場に行けば育成担当者がいて、彼らから実務指導を受けているのだが、その育成担当者にも予め新入社員指導に関する研修は実施していたらしい。新入社員がわからないことは育成担当者に相談できるよう組織的なバックアップ体制もしっかりと取られていたものの、全ての現場で育成担当者と新入社員のコミュニケーションが上手くいっている訳ではない。 このGAPを埋めるには、新入社員本人のコミュニケーション能力以外にも、現場の育成担当者の指導力、上司のマネジメント力・同僚の配慮や支援、問題解決型の人事諸施策、職務内容の考慮、職場環境の改善、会社の風土体質等々、多面的な観点から考えなくてはならない事は言うまでもない。そんな中で、特に問題だと感じたのは、「新入社員達の殆どは、自分ではなく相手の言動や考え方を変えてもらいたい」と思っている事だ。彼らも、上司や先輩の要求にはできるだけ応えていきたいと思っているのだが、自分はどうしたいという事を主張する術をもっていない。上手く対応できる社員もいるが、殆どの場合、自分の考え方や対処法を変えていくような考え方もスキルも持ち合わせていない。それは、人事部門もよく承知しており、Off-JTの場では、懸命に「相手は変えられないが、自分を変える事ができる」とメッセージを出して理解を求めるが、新入社員は納得するばかりか抗う気持ちを煽るばかりに見えた。 一方、新入社員を迎え入れた職場の問題も見逃せない。受け入れ態勢が整っていない職場に新入社員を配属しても、よほどのメンタルタフネスでない限り、自己向上は望めないし、むしろメンタル的には痛む一方だ。受け入れ態勢が整わない現場に、新入社員を預けることは大きなリスクであることは言うまでもない。この点はしっかりと事前に精査しておきたい。 親友社員の受け入れ態勢のチェックポイントは、 ●対面コミュニケーションを重視する職場の文化があるか ●育成担当は少なくとも等級でいえば2等級以上の上位者をアサインできるか(経験と実力の差は重要) ●新入社員に厳しく接しながらも傾聴ができる上司、育成担当がいるか ●新入社員がアイデアを出すような場(会議の場や飲み会の場でもよい)があるか ●公式的な評価面談を適切に実施しているか これらのチェックポイントがクリアできる職場であれば、新入社員が伸びる可能性は高い。 ある電鉄会社で、過去に実施していたストーブ会議(達磨ストーブを囲んで様々な話をしていた。そこでは、些細な問題から大きな問題まで話し合われ、時には難題の解決策も生み出すことができた)を再開したところ、一定の成果を上げている。暖房器具がエアコンに切り替わり、IT技術を取り入れた事で、人が車座になって対面して話し合う機会が消えた事を忘れていた。「人が対面して知恵を出し合い問題を解決する営み」の重要性を再確認し、現代版のストーブ会議が行われているらしい。このような場があれば、新入社員もおおいに学び、考え、質すちからがつくことが期待できるのではないだろうか。 人間関係に焦点をあてた心理学的では、人を変える事はできないが、自分を変える事はできると教える。この事を、局面を打開する時に応用する、自己成長に結びつける、といった話でOff-JTの座学の場で聞かされるのだが、その本質的な意味合いを人が正しく受け止められるように諭すことは決して易しくない。 新入社員以上に、長年仕事に専従してきた社員ほど自分を変える事を忘れている。専門分野に熟練すればするほど、人は頑なになりがちだ(変化を嫌うともいえる)。頑なになる最大のリスクは、新しい情報を得られなくなることだ。逆に言えば、素直でいる限り新しい情報は入ってくる。素直でいるという事は、自分に正直であり、事実に向き合う力があるという事だ。従って、自分に対峙できる力があれば、自分を変える事も可能だと言えよう。 先述した入社半年を経過した社員の困りごとも、他人ではなく自分に対峙する力を備える事で解決できることは多い。 コミュニケーションの本質の一つは素直さ(素直力)にある。これは松下幸之助が常々語ってきたことの一つだ。多大な費用を投じて採用した新入社員が、コミュニケーション力で躓いている。 もっと言えば、同じ職場の新入社員と育成担当者と上司の間でさえ、コミュニケーション不全が起きている。立場や年齢や経験の差を問わず、素直に自分に対峙し続けられる方法を磨く事が問われる時代なのかもしれない。そんな時代だからこそ、Googleはティク・ナット・ハンを招聘して講義をしたのではないだろうか。素直に自分に対峙する術を社員に与える事で、人と心、人と人の調和の必要性に気づいたのではないか。これからは、企業の人材の質を上げるには、ビジネス・スキルのみならず社員の素直に自分に向き合う心の質(マインドフルネス)も高めていかなくてはならないのだろう。
 

テレサ・キング

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