2010年(平成22年)6月、経済産業省製造産業局に「クール・ジャパン室」が開設され、日本の大衆文化を国内に広め海外に発信していく動きが進められている近年であるが、日本独自の大衆文化の中の1つであるオタク文化の象徴としてメイドカフェがあげられる。先日、友人が働いているというので初めてメイドカフェに行ってみる機会があったので、今回はその際に感じたこと、考えたことを振り返ってみたい。
はじめに、メイドカフェとはどういうものかについて、簡単におさらいしておく。
メイドカフェとは、文字通りメイド服姿のメイドに扮したウェイトレスが、店舗を邸宅に見立て、家事使用人のように振舞い、客はその主人・家人としての待遇を受けることができる飲食店である。(Wikipedia参照)飲食提供の際にメイドが料理やドリンクに「美味しくなる魔法をおかけします」といって、独自のフレーズとジェスチャーを投げかけてくれたり、お気に入りのメイドと一緒に写真を撮ったりゲームをしたりできるといったサービスが一般的である。
私は折角の機会なので、秋葉原にある複数のメイドカフェを体験してみることとした。
メイドカフェは店舗コンセプトがお店によって異なり、いわゆる“席料”であっても“お家賃”や“入国料”といったネーミングになっており、お店ごとの世界観を演出している。客層は、常連となっているお客が7~9割、外国人の観光客や私のような体験での新規客が1~3割、といった構成であった。
常連客が客層のメインとなっていることからもわかるが、複数店舗見てみると、人気のある店舗と人気のない店舗がはっきり分かれていることが見て取れた。では、人気のあるなし(常連客が定着しているか否か)はどこに原因が生じているのであろうか。いわゆるオタク文化には全く精通していない素人ではあるが、感じたことを整理してみたい。
私は大きく以下の3つが人気の有無を左右しているポイントではないかと考える。
① コンセプトが明確で店舗空間全体に浸透していること
② 働いているスタッフがそのコンセプトを理解し、演じられていること
③ 働いているスタッフに自分たちで工夫する裁量があること
①については、人気のあるお店では、店内の内装やメニュー、メンバーカードのデザインに至るまで、お店のコンセプトが明確になっており、いわゆるディズニーランドに代表されるような日常とはかけ離れた非日常空間の演出が上手にできていた。
②については、①の非日常空間演出にも大いに寄与する部分であるが、スタッフ(メイド)自身が、お店のコンセプトを理解したうえでキャラクターを演じきっているお店の方が人気があった。
また、③については、人気のあるお店は、自分たちの誕生日に実施するイベント内容やお店のメニュー考案にいたるまで、自分たちの裁量で決められる部分が多く、各スタッフの個性を発揮できる領域が広いようであった。結果として、働くスタッフ自身も生き生きとしてお店の雰囲気を盛り上げているような印象を受けた。
ところでこの3つ、世の中一般に顧客満足度が高く、成功しているといわれるB2Cサービスを展開している企業にも当てはまるポイントではないだろうか。特に、①や②のコンセプトを明確にし、それを体現して顧客にブランド価値として訴求していくというのは一般的な考え方だと思うが、③については、あまり一般的に意識されないポイントではないだろうか。
③のスタッフの自由裁量については、有名な成功事例でいうと、リッツカールトンやザッポス、スターバックスなどがすぐに思い当たる。
リッツカールトンは、エンパワーメント(権限移譲)という以下の3つの権利が現場のスタッフには与えられている。
1.上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること
2.セクションの壁を超えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること
3.1日2000ドル(約20万円)までの決裁権
これらによって、普通のホテルではなしえない接客サービスを顧客の事情に対応して実現し、顧客満足度の獲得、ひいてはリピーター獲得を実現している。
ザッポスは、CEOのトニージェイ氏が「ザッポスでは、『カスタマーサービス』は部門名ではありません。むしろ、会社全体の基盤が『カスタマーサービス』なのです。」と述べるくらい、経営理念として顧客満足度の向上が徹底されており、実際にザッポスのコンタクトセンターにはマニュアルがなくスタッフの判断にゆだねられている領域が大きい。
スターバックスは、アルバイトであっても働く上で「ファーストインプレッション」と「スターバックスエクスペリエンス」という実務に関係ないスターバックスの理念や価値観を共有する4時間ほどのプログラムの受講が義務付けられる一方で、接客マニュアルを作らず、顧客満足を向上させるためのスタッフ育成を店舗ごとに委ねている。
これらの成功事例から、③のスタッフの自由裁量が顧客満足度向上につながっていることがわかるが、一方でそれらを成功に導いているのは①や②のポイントで述べた、経営理念やコンセプトの浸透による土台作りであることもわかる。
「モノ売り」から「コト売り」へのシフトが叫ばれ、カスタマーエクスペリエンスやカスタマージャーニーといった言葉が跋扈している昨今、顧客満足度向上によって企業へのロイヤリティを高め、顧客を定着化させるための試みはどこのサービス企業も苦心している事かと思うが、この3つのポイントについて自社ができているか振り返ってみるといいのではないだろうか。
余談にはなるが、最近開発が進むAIのサービス業への活用においても上記ポイントは課題として捉えることができる。AIによって均質で安定したサービス提供を実現する一方で、特に、お客様の状況に応じて柔軟なサービス提供が実現する③のポイントを押さえられるかどうかがAIをサービス業で広める上での分水嶺にはなるのではないか。2020年の東京オリンピック開催に向け、日本の「おもてなし」を世界に発信していく大きなチャンスが到来するが、AIがどの程度活用されていくのか、③のポイントも念頭に置いて今後の展開に注目していきたい。
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