Appleは、時価総額が世界No1の現代を代表する企業だ。
Appleは、製品を提供するだけの一般的なメーカーには、模倣困難な3つの差別的な優位性を確立している。
AppleのiPhone事業は、覆しようのないビジネスであるかの様だ。しかし、そのiPhone事業の業績に異変が起きている。
ある時代の圧倒的なビジネスモデルは、破壊的なイノベーションにより崩壊していくとは限らない。むしろ、部分的に切り崩され、削り取られ、徐々に儲けなくなるケースも少なくない。 例えば、GMS(総合スーパー)の衰退がそうだ。1990年代初頭にカテゴリーキラー(衣料品のユニクロ、家具のニトリ、家電のヤマダ電機など)が登場、カテゴリー別の競争に敗れ、GMSは総合的な魅力を削り取られた。加えて、コンビニやディスカウントストアなど、新たな業態が勢力を拡大、GMS各社の営業利益率は低下を続け、儲けるビジネスではなくなった。
一方で、Appleの現状と比較したいのが、2015年に世界最大の小売企業ウォルマートの時価総額を逆転し、(時価総額)世界一の小売企業となったAmazonだ。同社の革新的なサービスを創造し展開するスピードには、目を見張るものがある。
Amazonが革新的な活動を加速し、Appleが減速しているとすれば、その差は何か。
Appleが次なる10年のトップランナーである為には、ある時点の製品ではなく、普遍性の高い立脚点を見出す必要がある。 創業ビジョンの「テクノロジーを介して何百万人もの人の生活を変える」に立ち返るならば、立脚点のヒントは“人の生活を変える”ということだろう。iPhoneは生活を変える手段に過ぎない。 現在の無敵牙城の増築に奔走すれば、凡庸な企業への転落は時間の問題だ。 トンコツ
同社は、収益構造の約7割をiPhoneが占める、生粋のスマートフォン・メーカーである。iPhoneの営業利益は、2016年7-9月のスマートフォン世界市場全体の営業利益の91%を占めるというから驚きだ(米Strategy Analytics調べ)。スマートフォン市場は、100ドルスマホ・メーカーが台頭し、熾烈を極める競争市場である。その様な環境において、AppleのiPhone事業は正に独り勝ち、無敵の牙城として君臨している。
一つ目は、iPhoneとiOSを、アプリの開発者と利用者という2種のユーザーグループの取引場として位置付け、両ユーザーグループの拡大に伴い、顧客価値を最大化するプラットフォームを構築したこと(①)。二つ目は、iCloud、iTunes、Apple Store、Apple TV、Apple Watchなど、モノとサービスによる包括的・相乗的な価値向上により、ユーザーのスイッチングコストを引き上げること成功したこと(②)。三つ目は、OSの開発から販売店の展開に至るまでバリューチェーン全体を統合し、粘り強いコスト削減と提供価値の改善により、強固なブランドとマージン最大化を実現した(③)。 ①プラットフォーム、②サービス・ドミナント・ロジック、③垂直統合モデルという3つの差別化を継続して磨き上げることで、iPhoneというイノベーションの持続的な競争優位を実現した。
2016年、iPhone販売台数が減少し、1-3月、4-6月、7-9月と、3四半期連続、前年同期比の減収減益となったのだ。特に成長市場の中国では、昨年から3割売れなくなり、シェアを3位から5位に落している。屋台骨であるiPhone事業の業績不振は、Apple全体の衰退に直結する。私は、この業績不振を、無敵牙城であるiPhone事業の崩壊の始まりと見ている。
Appleも、類似の状況にあるのではないか。iPod×iTunesを生み出して以来、音楽ビジネスは同社の主戦場であったが、ストリーミングサービスが主流になり、他社サービスに後塵を拝する。加えて、3割の売上減となった中国では、新興勢力が急速にキャッチアップしており、ハイエンド・高価格帯の市場において大きくシェアを奪われた。今やSpotifyで音楽を聴き、YouTubeで動画を観賞し、格安のSIMフリー携帯を利用することで、安価で同質のサービスを享受できる。 初代iPhoneの発売から9年、総力戦でAppleに打ち勝つメーカーは存在しないが、部分的な競争は激化を続け、総合的な魅力が失われつつある。そして、新興勢力の革新のスピードがAppleに追いつき、勝る状況が顕在化している。今後、部分的な切り崩しが続くならば、iPhoneの無敵牙城は崩壊し、競争力を失う恐れがある。
レジなしスーパー”Amazon Go”、ボタン押せば日用品が届く”Amazon Dash Button”、人工知能スピーカー”Amazon Echo”、1時間でモノが届く”Amazon Prime Now”、30分以内にドローンが配達”Amazon Prime Air”、等々、矢継ぎ早に既存の小売ビジネスを揺るがす新サービスを生み出し続けている。
根本的な違いは、創業ビジョンとその革新の対象にあると考える。 Amazonの創業ビジョンは「世界最大の小売業」であり、小売業=企業と最終消費者の商取引という、普遍的なビジネスそのものを革新の対象とする。一方、Appleの創業ビジョンは「テクノロジーを介して何百万人もの人の生活を変える」だ。しかし、約10年の間、革新の対象はスマートフォンと周辺の製品とサービスである。革新的な活動の前提として、普遍的なビジネスに立脚するか、時代に求められる製品に立脚するか、という違いがある。 ある時代の革新的な製品は、時の経過とともに荒廃してゆく。そこに立脚した競争優位であるが故に、Appleの無敵牙城は崩壊に向かうだろう。
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