人工知能(AI)の進化が新たな段階を迎えている。2022年11月末のリリースから、わずか2か月で1億人のユーザーを獲得したチャットボット「ChatGPT」は爆発的に普及を続けている。最大の特徴は自然言語、つまり人間が普段話す言葉でAIとコミュニケーションできる点だ。2000年代から始まった第三次AIブームではディープラーニング技術によってAIの社会実装が進んだ。人間の知覚の役割を担うAIが、工場の自動化や自動車の運転アシスト機能など広く活用されている。こうしたAIを操作するにはプログラミング言語が必須であり、誰もが使えるものではなかったが、それを一気に民主化したのがChatGPTである。これまでも会話型のAIは存在したが、回答は定型的で連続的な対話は苦手だった。一方ChatGPTでは、前のやりとりの文脈を踏まえた汎用的な受け答えが可能であり、インターネット上から収集した膨大な言語データを基に事前学習していることが特徴だ。
リリースされてから間もないが様々な用途で話題に上がっている。“こんな感じで作ってほしい”とお願いすれば、プレゼン資料やプログラミングのコード、作詞やyoutubeの企画アイデア、ブログの記事などをそれなりのクオリティで自動記述してくれる。文章の執筆・添削・要約から顧客対応、議事録の論点まとめ、履歴書づくり、仕事や生活についての相談、ゲーム作りなどなど、活用事例を挙げればキリがない。精度も日々向上しており、大学の課題や論文では、高評価をとれるレベルでAI(ChatGPT)が作成してしまうため、教育業界ではAIの活用の仕方について議論が白熱している。
ChatGPTは現状の業務の大半を代替できる可能性を秘めており、ホワイトカラーの仕事に大きな影響を及ぼし、教育や医療、生活シーンにおいてもAI活用が浸透していくだろう。
日本におけるAI研究の第一人者である東京大学松尾教授は、インターネットの発明よりも大きな変化が起きるとまで語っている。インターネットが登場した時、影響や変化について想像しきれないのと同様、今後思いがけないような使い方も増え、従来の仕事の仕方や生活の様相が大きく変わっていくだろう。AI活用がビジネスや生活の場に浸透し、人々がAIを使うことが当たり前になってくる時代には、どのようなリテラシーが求められるのだろうか。
1つ目は何が正しく、何が正しくないかを判断する思考力(健全な懐疑心)だ。ChatGPTは人間の言葉を聞いて、人間の言葉で返事をしてくれる機械ではあるが、知性を持っていたり思考していたりするわけではない。インターネット上の5兆語ともいわれる大量のデータから、基本的には前の文章に対して確率的に最も高い続きを予測して出力するというシンプルな仕組みをしている。「昔々」という言葉が来たら「あるところに」を続けるようなものといえばわかりやすいだろうか。AIの精度が向上しても100%の正確性は実現しないのである。
そもそも正しさとは何かを扱っていないため、平然と誤る可能性を秘めているAIに対し、我々は出力される内容を鵜呑みにするのではなく、取捨選択しなければならない。例えばあるネットメディアが、意図的に偏った思想の文章を書きなさいとChatGPTに指示し、膨大な数のフェイクニュースが毎秒ばらまかれたとする。こうなると人力のファクトチェックは追いつかないだろう。今後の選挙はそのような環境の中で行われることになる。根も葉もないデマで誰か(特定の政治思想にそぐわない候補者)が血祭りに挙げられ、誤った政策誘導がなされる可能性もあるのだ。楽をして何も考えずに流れてくる情報をそのまま信じるのではなく、一つ一つの社会課題と向き合い、どうあるべきかを考える姿勢が重要だ。
2つ目は質問力だ。AIによる出力のクオリティは操る言葉次第で0にも100にもなる。望みのアウトプットを得るには、インプット、つまり入力するプロンプトを工夫して、試行錯誤する必要がある。何も考えずに端的にAIに質問してもそれなりに返答してくれるが、インターネット上の有象無象の情報が詰め込まれた箱からやみくもに特定のものを探し出そうとする行為に近い。探す範囲をどんどん絞っていくために、段階的な質問や、できるだけ条件をつけて具体的に聞く事がポイントになる。
例えば、商品企画のアイデアを出す際に「何か面白い商品企画を考えてください」と命じてもぼんやりとした答えが返ってくる。一方「あなたは広告代理店のマーケティング部長です。今度発売する清涼飲料水の最高の企画を考えてください。制約条件は~」と命じると、より専門的な知識が盛り込まれた内容になる。
最善のアウトプットを引き出すために、検索で簡単に打ち込むような聞き方ではなく、望ましいコンテキスト、結果、長さ、形式、スタイルなどについて、具体的で詳細な設定をするような聞き方が求められる。
生成AIの新しい使われ方も日々生まれている。一例だが三井化学はチャットGPTとIBM Watsonを融合することで、三井化学製品の新規用途探索の高精度化と高速化の実用検証を開始したと最近公表した。SNS等の大量のテキストデータを分析し、「ある地方電鉄車中で、カビ臭い」という投稿が多いことを見つけ出し、従来の営業手法では思いつかなかった電車内の防カビ製品の販売活動へとつなげている。
これまで日本は素材分野では世界的な競争力を持っていたが、顧客以外に自社製品がどう使われるか見つけ出すのが困難であった。生成AIシステムはこれを見つけ出せる可能性を秘めている。今後は完成品メーカーが生成AIを使って素材を探し始めるだろう。双方向で一気に加速しこれまでになかった新しい使われ方、新たな結合が生まれ、イノベーションが加速する。
AI技術の発展は、私たちの働き方や生活に大きな変化をもたらすことは間違いない。調査やドラフティング、分析、コーディング等、人間がAIによる様々な支援を受けながら、より高度な問題の解決や創造性の向上など、相乗効果を生み出せる環境になってきている。しかし、AIはアイデアを出したり文章を書いたりデザインしたりすることはできるが、そこには「こうしたい」という人間の意志が求められる。好奇心や社会に課題を感じる感受性、ありたい姿を描き、AIをどんな業務、どんなサービスと掛け合わせられるかを発想する力が重要だ。AI技術の進化に柔軟に対応し、創造力を発揮しながら新たな価値を生み出すことが求められる私たちにとって、AIとの共創の力が成功のカギとなるであろう。
エウロパ
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