厚生労働省が発表した2022年の出生数は過去最少だった2021年を4万875人下回る77万747人となり7年連続で低下した。統計を取り始めた1899年の中で初めて80万人台を割り込み、出生率は過去最低の1.26となった。
なお出生率の指標の一つにもなる婚姻数は2021年には50万1116組まで3年連続で減少し、戦後最少を記録した。コロナ禍の影響もあるが将来不安から結婚を躊躇する人も増えているといわれ、少子化から抜け出す糸口がなかなか見いだせていないのが実状だ。2022年には微増したものの、未だ低水準に留まっている。
政府は2023年の年頭会見で「異次元の少子化対策」の検討を発表し、少子化問題は待ったなしの課題であり今後将来的な子ども予算倍増に向けたフレームを示していく考えを表明した。
内閣府の少子化社会対策白書によると少子化の背景には、経済的な不安定さ、出会いの機会の減少、仕事と子育ての両立の難しさ、家事・育児の負担が依然として女性に偏っている状況、子育ての孤立感や負担感、子育てや教育にかかる費用負担など、個々人の結婚・妊娠・出産・子育ての希望の実現を阻む様々な要因が複雑に絡み合っているとされている。
特に若い世代の未婚者の希望する子ども数は減少傾向が続いており、2023年3月のこども家庭庁の資料では20代男性で 1.82人、女性で 1.79人となり女性では初めて2人を下回った。将来子どもの生活を保障できるレベルでの収入、コロナ禍で失職や解雇の不安が強くなったなどの意見が出されているとされる。
こういった複合的な要素を見てみると、少子化問題は単に子育ての支援だけでなく、若い世代が結婚・仕事と働き方・中長期でのライフステージなどの展望を見据えることができる社会基盤が求められていると考えられる。
今回6月13日に発表された「子ども未来戦略方針」では2030年代に入るまでが少子化を食い止めるラストチャンスとし、その対策として大きくは4つの柱となる政策を纏めた。①児童手当の拡充 ②保育施設利用 ③育児休業給付 ④出産支援である。
児童手当は2024年度中に親の所得に関わらず子どもが高校卒業まで支給、3歳から高校生は一人当たり一律1万円とし第三子以降は同3万円が支給されるほか、親の就労を問わず時間単位で保育施設を利用できる「こども誰でも通園制度(仮称)」を創設する準備を進める。育児休業給付も夫婦ともに育休を取得する場合は最大28日間を限度に社会保険料の免除とあわせて実質的に手取りの10割相当を確保することとなる。また、2026年度には現在保険適用外となっている出産費用の適用の進める方針であるほか、出産育児一時金は50万円へ増額して出産費用の負担軽減につなげたい考えだ。
いずれも出産・子育てにかかわる経済的負担の軽減が中心に据えられたものであるといえよう。
少子化は先進国共通の課題といわれており、各国ではその対策が迫られている。一方でいくつかの国では持ち直したケースもある。
フランスの例を挙げてみたい。1994年には出生率が1.65まで落ち込んだフランスでは、週労働35時間制や事実婚も社会保障を受けられるパートナーシップ制度(連帯民事契約:PACS)が1999年に施行され、その結果2006年には出生率は2.0に達した(現在は微減している)。PACSは同性を含む非婚カップルにも社会保障や相続を含む一定の法的地位を付与している。2019年にフランスで生まれた子の6割が婚外子とされその比率の高さは日本との大きな違いとなっているが、フランスでは「婚外子であっても差別することはしない」「子育ては女性が行うもの」という概念が長年の男女平等政策の積み重ねでなくなってきているといわれる。背景にある国民に根付いたパートナーシップに関する価値観がPACSを支える大きな社会基盤の一つとなっている例といえよう。
また婚外子も含めたフランスの子育て支援政策は細かく定められており、毎年その費用対効果を継続的に検証している点も施策の効果に繋がっている。今回の日本政府の子育て未来戦略方針とも複数合致する施策は見られ日本も参照していると思われるものの、フランスの施策は出産については出産前の受診から産後のリハビリテーションまでの完全無償化、子どもを3人養育すると年金が加算されるなど、他にもかなり踏み込んだ内容が伴っていることから日本よりも進んだ取組みになっている。
国内に目を向けると日本の出生率を上げる成果を出している企業もある。伊藤忠商事では2021年の出生率が国内平均を大きく上回る1.97になったと公表し大きな話題となった。
伊藤忠商事の取組で注目すべきは、企業が出生率引き上げを目的に働き方改革に取り組んだのではなく、女性を含め様々なライフステージを経て生きる社員が長く働きやすい職場を作り上げることを当初の目的としたことにある。朝型勤務や在宅勤務、早期復職支援など組織の生産性向上や成長に取り組む中で、副次的な効果として出生率が上昇したというのだ。朝型勤務により終業時間が決まるため子育て中の社員にとっては子どもの生活リズムにあわせた業務プランが立てやすいという利点もあり、出産後の女性はほぼ全員復職するようになったという。働きながら子育てができる職場である安心感が出生率の向上にもつながっている好例といえよう。朝型勤務は男性社員にとっても子どもと過ごす時間が増え、それ以外の社員も夕方以降は自己研鑽を含めた自分の時間に充てられるなど社員全体のライフスタイルにも大きく影響を与えているという。働きやすい職場づくり、ライフステージに合った働き方があってこそ社員は安心して出産・子育てを自身のキャリアの中に組み入れることが出来るのだといえる。
2022年10月に施行された改正育児・介護休業法では、通常の育児休業に加え「産後パパ育休」と呼ばれる子どもの出生後8週間以内に夫が4週間までの休みを取得する新たな制度が創られた。賃金の最大8割(育児休業中の社会保険料の免除と合わせ、手取り収入として実質給料の全額)が保障されるなど休業中の経済負担に考慮して男性の育児休業取得推進に繋げようとしている。出産後の女性の負担を軽減することで、女性の就業継続に繋げたい考えだ。
内閣府のワークライフバランスレポートによると第1子を出産後夫が家事・育児に関わる時間が長いほど、第2子以降の誕生が増える傾向があるとのデータがある。共働き世帯にとってこの制度の定着は女性の職場復帰だけでなく出生率向上に繋がる可能性が感じられる。
政府が目指す2030年代までの少子化食い止めは「子どもを産んでもお金に心配する必要はない」という先ずは一定の安心を与えているものになっている。
ただ先にも述べたように少子化を取り巻く問題は安心して出産・子育てができる社会基盤をあらゆる側面から考えていく必要がある。若い世代が結婚し子育てしていく未来に希望と期待を見出せる、安心して出産・子育てができる働き方含めた職場の環境整備は企業側からもアプローチできる解決に向けたカギの一つになりそうだ。
フォークナー
参照:内閣府 少子化社会対策白書
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