仕事で成果を上げている方にお会いすると、ほとんどの方に共通していることがある。それは、人のメカニズムをうまく活用しているということだ。例えば、仕事の能率を上げるために、複雑な思考を要するアウトプットを意識的に朝一にしている方がいる。諸説あるが、脳科学的には、早朝は脳のブドウ糖が不足し、脳が危機状態であると判断することで、扁桃体や海馬が活性化されるメカニズムが働くため、クリエイティブな活動に向いているとのことだ。確かに、早朝の方がアウトプットのスピードも質も高まるように感じることがある。
また、自身を振り返ってみると、最近人のメカニズムをうまく活用するようになって、仕事の能率が格段に上がったと実感できるようになったことがある。それは、“やる気が出たから行動するのではなく、行動するからやる気が出る”というものだ。
実は、脳の真ん中辺りには、側坐核と呼ばれるやる気を生み出す機能があるのだが、この神経細胞はある程度の刺激が来ないと活動しないのだそうだ。ところが、何か少しでも手をつけて、この神経細胞に刺激を与えると、やっている内に自己興奮して集中力が高まり、気分が乗ってくることが解明されている。つまり、“やる気が出たから行動するのではなく、何か行動するからやる気は出る”のである。(1*)
これを作業興奮と呼ぶそうだが、このメカニズムを意識的に実践し始めてから、“やらなければならないのに、何も思いつかないし、気分も乗らないので後回しにしていた仕事”を大幅に減らすことができた結果、仕事の能率が上がったというわけだ。
ここでは、実際の体験結果をもとに、すぐに実践できるお勧めの方法を3つご紹介しておきたい。
①とにかく書いてみる
やる気が出ない時は、取り組んでいる仕事のタスクや課題を何でもよいから書き出してみることだ。
ペンを使って思い浮かんだことを実際に紙に書いてもよいし、PCのメモ帳などを活用して思ったままに書き出してもよい。
ペンを走らせる音やキーボードをタッチする音が脳を刺激するからなのか、数分もしないうちに、“あのタスクも
やった方がよい”とか、“こういう視点が大事ではないか”といったことが、勝手に頭に浮かび始める。その後、
思考が整理されてくると、いつの間にか仕事に集中し始めている自分に気がつくはずだ。
②次にやるべきことに少し手をつけておく
読者の中には、ここまでやるという目標を決めて、目標のタスクを終えたら、休憩や休暇に入るといった仕事のスタイルを
取っている方は多いと想像する。ただ、リフレッシュ後に、新しいタスクにすぐに集中して取り掛かれるかというと、気分が
乗ってくるまでに時間を要する。その状態を回避するために、リフレッシュタイムに入る前に、新しいタスクに少し手を
付けておくことをお勧めする。例えば、新しいタスクの整理として、“①のとにかく書いてみる”を少しやっておくだけで、
タスクに対するやる気が出て、リフレッシュ後にスムーズに取り掛かることができる。
③ 目の前の環境をきれいにする
仕事のやる気が出ない時は、目に見える範囲の環境をきれいにすることが、行動する内にやる気を出すことにつながる。
例えば、いつも使うPCや机を拭く、書類の整理や断捨離、デスクトップの整理などを実施してみるとよい。視界に入る
環境を整理整頓することで、仕事に取り掛かる準備がいつの間にかできるようになっている。外を整えることで、内を
調えているのであろう。①②の前に、③を実践しておくとより効果的であると感じる。
仕事でパフォーマンスを発揮されている方とお会いした際に、上述した3つの方法について聞いてみると、何かしら類似した内容を実践しているケースが多い。やはり、彼らは人のメカニズムをうまく活用しているようだ。
ところで、人のメカニズムを活用することでパフォーマンスを上げる工夫は他にもたくさんある。例えば、「馬上、枕上、厠上」の三上という、文章を練るのに最も都合のよいとされる場所を表す言葉がある。これは、“アイドリング脳”と呼ばれる脳科学の研究結果(2*)で説明がつく。
例えば、リラックスしている時やぼーっとしている時(アイドリング)に、脳の情報処理活動が活性化されることで、未解決の課題が突然解決する場合がある。起きている時は思考停止状態に陥っていたにも関わらず、睡眠後に嘘のようにその状態が解消される経験をした方も多くいると思う。
つまり、考えが煮詰まった時に、体を動かし(馬上)、睡眠をとり(枕上)、用を足す(厠上)ことなどを、意識的に実践すること(アイドリング脳を活用すること)で、良いアイデアが浮かぶ可能性が高まるわけだ。
ここまでいくつかの事例を見てきたように、世の中には感覚的に知っているが、そもそも人のメカニズムであることに気がついていないケースがたくさんある。今回ご紹介したような普遍的な人のメカニズムを探すことを楽しみながら、見つけたらちょっと試してみるといった遊び心によって、仕事のパフォーマンスを高めることができるのではないだろうか。
思い返してみると、“早起きは三文の徳”や“温故知新”のようなことわざや四字熟語など、昔から伝わる言葉には、人の普遍的な特性を表しているものが多く、私たちは知らないうちに、人の真理を学んでいたのかもしれない。
そのような当たり前なことの大切さを痛感しているわけであるが、子供の頃に国語の授業で学んだことや普段から特段意識せずに使っている言葉に、いま一度目を向けてみてもらいたい。知っているようで知らなかった“人のメカニズム”に気がつくとともに、それを仕事に取り入れることで、あなたの仕事をより良くするヒントを見つけることができるはずだ。
人生を豊かにするには、普遍的な人のメカニズムをたくさん知って、それを実践することなのかもしれない。そんな物思いにふけるクリスマスの夜であった。
U2
1* 池谷 裕二,糸井 重里著「海馬 脳は疲れない」を参考
2* https://www.jsps.go.jp/file/storage/kaken_12_g726/r_5_jp_23h05476.pdfを参考
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