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デジタル赤字の捉え方

 国際収支におけるデジタル関連サービスの赤字である「デジタル赤字」という言葉がメディアで頻繁に報じられるようになった。近年急速に赤字幅が拡大し日本の国際収支におけるデジタル赤字が拡大している。日本の財務省の国際収支統計をみるとデジタル分野の赤字は2023年に5.5兆円となり、5年で2倍に増えた。24年もすでに上期(1〜6月)だけで3.1兆円に達し、前年を上回るペースで拡大している。

 

 デジタル赤字とは、日本人や日本企業が海外企業のデジタルサービスを多く利用することで、国際収支におけるデジタル関連収支が赤字になる状況を指す。

 日本のデジタル赤字が膨らんだ原因として、国内における海外のデジタルサービスの利用がより一層活発になったことが挙げられる。検索はグーグル、会議はチームズやズームが当たり前。アマゾンで買い物をし、ネットフリックスやユーチューブで好きな映画やドラマ、動画を見る。いまや多くの人にとって日常の光景だろう。こうしたサービスのほとんどは、海外のIT(情報技術)企業が提供している。ふだん意識することはないかもしれないが、使うたびにお金が日本から海外に出て行くことになる。

 

 日本のデジタル競争力の弱さを象徴していると考えられる事象だが、そもそもデジタル赤字は日本経済にとって「悪」なのだろうか。

 マイナス面からみると、1つ目は、一般の貿易赤字や輸入超過と同じく、海外への依存性が高まることによる経済の自立性の低下があげられる。また最近のように為替相場が変化することで急激に価格が高騰するなどのリスクもある。

 2つ目として、海外市場における日本のデジタル技術やサービスの競争力の低下だ。技術の開発に遅れを取ると、将来的にさらに競争力が低下する可能性がある。

 3つ目として情報セキュリティのリスクもある。今日では政府系や地方自治体、公共性の高い企業までが、外国製の技術やサービスに依存している。この依存がすぎると、情報の流出やセキュリティのリスクが高まる可能性がある。

 一方、デジタル赤字の拡大はマイナス面ばかりではない。プラスの面にも着目する必要がある。デジタル赤字拡大の背景には、日本の消費者や企業が便利なデジタルサービスの利活用を進めたこと、つまり「デジタル化の加速」の側面もある。

 その他にも、海外のECサイトのプラットフォームを活用することで、中小企業なども海外市場に容易にアクセスが可能になり、販路拡大の機会につながっている。またクラウドなどでは、安全性やセキュリティが担保されたサービスを、自社でサーバーなどを整備(オンプレミス)する場合と比較し低コストで利用できる。これらはいずれもデジタル赤字のプラス面である。

 

 デジタル赤字は、「赤字」という表現からマイナスのイメージを受けやすいが、日本のデジタル化が進んだ結果として、デジタル赤字は拡大している。

 今後もデジタル赤字が拡大していく見通しではあるが、この状態を放置するにはリスクが大きい。公共機関や社会インフラが海外のIT技術に依存している状況は、特に危険に思える。

 例えばGPS衛星はアメリカの衛星を利用しているが、米軍が管理しているGPSは危ないということで、各国が独自の衛星を打ち上げている。それこそGPS信号を止められたらGPSを利用するすべてのデジタル機器が誤作動してしまう可能性がある。

 生成AIも現在OpenAI社始め海外企業のサービスに依存しているが、個人データ等秘匿性の高い情報を使用する企業や公務では外部と隔絶された環境が必要になる場合も多い。海外製の生成AIソリューションを使用することができず、業務効率化が求められる中、クラウドを介さない完全クローズドなオンプレ生成AIソリューションが求められている。

 

 日本が目指すべきは、まずは日本の強みとデジタルの融合である。海外事業者のデジタルサービスを活用し、付加価値の高い製品・サービスを提供することができれば、デジタル赤字が拡大したとしても、その他のサービス業で稼ぐことができる。例えば、アニメ産業は競争力の高いコンテンツである。世界の視聴者動向を調査する米パロット・アナリティクスが発表した「グローバルTVデマンド・アワード」では23年に最も人気の高いテレビ番組は「呪術廻戦」だった。21年には「進撃の巨人」が選ばれた。「【推しの子】」や「鬼滅の刃」も海外展開で一定の成果を収める。最近ではアニメ制作にも生成AIの導入が始まっており、従来1週間かかっていた背景作業が5分でできるようになったり、人間が作る下描きをもとにAIが色塗りや背景画像を担当する。AIに仕事を担ってもらうことで、人間は企画やキャラクターデザインに集中でき、作品のバリエーションが増えれば海外輸出の後押しにもなる。

 また、現在、日本で活況を呈しているインバウンド(訪日外国人旅行)の分野では、人手不足が制約要因になりつつあるが、デジタルを活用することで人的リソースが限られるなかでもサービスの付加価値を高めることができる。革新的な技術を生かしグローバル化を進めれば日本経済を支える基幹産業になりうるかもしれない。

 

 日本のデジタル赤字拡大を止めることは短期的には困難であり当面はデジタルを積極活用し、日本の強みを活かして稼ぐ力を高める必要がある。もちろん、本来であればデジタル基盤分野でも強みを出せることが望ましい。

 昨今では、国内最大のユニコーンとしても知られている半導体や計算用コンピューター、LLMまで一貫して開発しているプリファード・ネットワークスのような企業も台頭してきている。先端のデジタル基盤分野への技術投資も継続的に進めて、競争力のある国産ITインフラの構築に向け、国や大企業と連携しながら、中長期的な目線でデジタル赤字の解消を図っていくことが必要だろう。

 

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