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「変化」に恐れない組織風土改革

 近年、企業のホームページやニュースで「イノベーション」という言葉をよく目にする。ある時ふと気になり、イノベーションについてGoogle先生に問いかけてみた。すると、結果一覧には、「日本のイノベーションが遅れている理由」「なぜ日本ではイノベーションが生まれにくいのか」「日本でイノベーションが生まれなくなった真因」など、いかにも日本のイノベーションが進んでいないような内容のWEBサイトが散見された。継続的なイノベーションが市場価値の貢献に繋がっていると考え、ビジネスモデルの革新や技術革新に積極的な企業の調査を進めると、1989年の世界時価総額ランキングトップ50には32社の日本企業が名を連ねていたが、2024年のランキングにランクインした日本企業は1社のみだった。なぜこのような結果になってしまったのか疑問に思っていたなかで、株式会社シナ・コーポレーションの遠藤功氏のインタビュー記事を見つけた。そこには、「挑戦しない組織は成長できません。なぜ挑戦できないのかというと、挑戦ができない組織になっているからです。挑戦させてもらえない、あるいは、挑戦しようとしても誰も助けてくれない。多くの日本企業がそういう組織になってしまっています。誰もが失敗を恐れ、挑戦する人が増えない。当然、成功することはありません。」との記述があった。この記事を読んだ際に、日本でイノベーションが進んでいないといわれてしまう原因として、1つ仮説を立ててみた。それは、「過去のルールや伝統への固執」が原因ではないかという仮説である。例として、日本のデジタルカメラ業界が挙げられる。世界的にも評価されていた日本のデジタルカメラ技術だが、その技術や影響力に固執した結果、カメラ機能の備わった携帯電話の登場によりデジタルカメラの売上は低迷し始め、携帯電話という全く異なる製品がもたらす破壊的なイノベーションを予想することができず、イノベーションのジレンマに陥ってしまった事例として知られている。もちろん、過去のルールや伝統を守ることが、秩序を保ち、協調性を重んじる日本社会の基盤となっていることは事実であり、他国から評価されている場面も存在すると考えるが、なかには時代にそぐわない慣習や非効率なルールも「伝統」や「文化」の名のもとに守られ続けることが多いのではないか。

 

 このように感じている人は少なからず私だけではないはずだ。なぜそのように感じてしまうのか、古いルールや伝統、文化に守られ続けてしまうのはなぜか。

 

 日本では、これまでの実績や過去の経験を重んじる傾向が強く、「前例のないこと」や「新しい試み」に対して疑念が抱かれ、否定的な態度を取られることが少なくない。特に企業や行政の現場では、過去のルールや手順が重要視され、それを覆すことが「リスク」として捉えられるために、印象がある。他国と比較しても成果主義ではなく年功序列や終身雇用の企業が未だに多いこと、書類の承認に未だに印鑑が必要とされる文化などが例として挙げられる。OECD(経済協力開発機構)のスキル報告書は、2019年に行ったリスクに対する各国意識調査の結果を掲載している。これは、リスクを「危険」と考えるか、「好機」と考えるかの違いを探った調査である。結果日本は、「危険」と考える人が79.6%、「好機」と考える人が15.3%。主要先進国(G7諸国と韓国)の中では「危険」回答がトップ、「好機」回答が最下位という結果だった。このように、リスクを「危険」と考える傾向があり、たとえ新しいアイデアが現状を改善するものであっても、過去の慣習や既存のルールを尊重するために却下されることがあり、挑戦する姿勢が見られない場面が見受けられるのではないだろうか。

 

 このような状況では、ルールを変えようとする人々は「異端」と見なされやすい。ルールや慣習に対する忠誠心が強い社会では、異端者は容易に孤立し、周囲からのプレッシャーに晒される。例えば、企業で新しい働き方や業務改善を提案する人が「面倒な人」と見なされ、昇進や評価に不利に働くケースがある。このような結果として、改革を望む人々が生きづらさを感じる状況が生まれているのではないだろうか。

 

 また、日本社会が時代にそぐわない慣習や非効率なルールを残してしまうことには、社会的な圧力だけでなく個人の「変えたくない」という心理も影響していると考えられる。変えたくない心理は多くの場合、未知のものや変化に対する不安や失敗への恐れから生じる。慣れ親しんだものや昔から続いてきたものには安心感があり、その安定を失うことへの不安や恐怖が、変革を拒む心理を生み出している。実際に株式会社ラーニングエージェンシーが実施した新入社員意識調査にて、「安定した生活を送りたい人」の比率が2017年の55.6%から2022年には64.5%まで上昇したデータがあった。また、2018年に実施したOECD(経済協力開発機構)の失敗を恐れる程度を国別に調査した結果で、OECD諸国の中で最も失敗を恐れる程度が高い国が日本であるという調査データもあった。このように日本は安定志向が強く、その安定志向や失敗をしたくないマインドがイノベーションの阻害要因になっていることが推測できる。

 

 それでは、安定志向や失敗をしたくないマインドを払拭し、時代にそぐわない慣習や非効率なルールから脱却するにはどうすればよいのか。

 

 まずは、成功事例だけでなく、失敗事例から学ぶ文化を作ることが必要だ。また、失敗を個人の責任ではなく、プロセス改善の機会とみなし、組織全体で前向きに改善に取り組むような体制を整えていくことが求められる。また、何かにチャレンジする際、迅速な決定が求められる際には、トップダウン型の意思決定や判断力も必要となるが、現場の声を尊重するボトムアップ型の仕組みも重要となる。つまり、トップダウンとボトムアップのバランスがチャレンジ精神を引き立て、イノベーションに繋がるカギになるとみている。そのため、経営層が掲げた目標やビジョンに対する現場の創意工夫を奨励し、双方が利益を共有できるような制度や意見交換の場を設けることで、トップダウンとボトムアップのバランスが取れた組織となるのではないか。そのうえで、日々の生活や仕事の中での「不便」や「要改善」ポイントを数値化し、地域や企業がそのデータをもとに改善できるようなプラットフォームを作成してみると、日々の不便を簡単に報告でき、その数値を分析し、特に改善が必要な領域を発見・共有することで、数値に基づいた変革が可能となり、個人の意見が組織全体にとって意味のあるデータとして有効活用することができると考える。

 

 さて、日本社会はもともと「和」を重んじる文化に根差している。「和」とは、協調や調和、グループの一体感を重視する考え方だ。歴史的にも農耕民族として集団生活が必須だった日本では、個人が異なる意見や行動を取ることが「和」を乱すと考えられがちだった。日本には「村八分」という言葉が存在するように、ルールや価値観に従わない個人を排除する慣習が一部の地域であった。そのため、この「和」を重んじるという価値観は、ある意味昔ながらの慣習や非効率のルールに従い続けてしまう理由の一つにもなっているのかもしれない。これからの時代は多様性が声高に叫ばれる時代であるが、「和」の精神の本質は多様性をも包摂するような価値観であるはずであるし、それ自体もこれからの時代に即した新たな価値観に変容していくことが求められているのかもしれない。

 

 私が望む日本の在るべき姿は、日本社会全体が「変わることの良さ」を理解し、「和」を尊びながらも「変化」とのバランスを取れるようになることだ。ルールを変えたいと願う人々が孤立せず、むしろ新しい視点を歓迎される環境が整うことで、個々人がより生きやすい社会が実現される。その結果として、日本がさらに活力ある国へと成長することが期待される。

 

シャオリン

 

 

■参考文献

 1.STARTUPS JOURNAL/世界時価総額ランキング1989>>>2024 参照
 https://journal.startup-db.com/articles/journal-startup-db-com-articles-marketcap-global-2024
 2. UNITE powered by Unipos/「【前編】なぜ今、風土改革が必要なのか?基礎から学ぶ組織風土改革の全て 参照
https://unite.unipos.co.jp/643/

 3.GDX TIMES/なぜ日本ではイノベーションが生まれにくい? 日本のイノベーション事情を探る【オープンイノベーション①】 参照

 https://gdx-times.com/knowledge-open-innovation/

 4.ForbesJAPAN/平均年収が最も伸び悩む日本は「変化を嫌う」OECD調査結果 参照
 https://forbesjapan.com/articles/detail/60479

 5.IT Leaders/失敗を恐れる日本の風土を払拭しよう! 参照
 https://it.impress.co.jp/articles/-/25549

 6.PR TIMES/【2022年度 新入社員3,659名の働くことに関する意識調査】 参照
 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000084.000005749.html

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